コラム「母をみとる」

パーソン・センタード・ケア

(C)NY GALS FILMS

 私は、認知症ケアにおいて、唯一無二だと考えるようになったパーソン・センタード・ケアについて、10年近く語り続けてきています。改めて、このパーソン・センタード・ケアという英語を考えてみましょう。

 <パーソン(Person)>は、第3人称です。中学で英語を習い始めると最初に学ぶことですよね!He, She, It, My sisterなどで、複数であればTheyやMy sisters。つまり、第3人称は、私でもあなたでもなく、第3者ということになります。この第3人称であるのが、パーソンであることをしっかりと認識することが重要だと思います。

 認知症のケアを必要としている相手を第3者として見る。例えば、お世話することが大好きな人には、ちょっと冷たく感じる言葉かもしれません。しかし、介助する側の思いだけにあふれないためにもこの<パーソン>=第3者であるということを忘れない。その上で、その人を中心にして(Centered)特化したケアが、パーソン・センタード・ケアということになります。ケアが必要な人の観点から必ず見て、どのようなケアが有効でかつ必要なのかを考えることになります。おのずと十人十色のケアにたどり着きませんか?

 実は、パーソン・センタード・ケアは、認知症ケアだけではなく、日常生活にも適応することができます。私事になりますが、息子の父親と私は、息子が2歳の時に別居(離婚はかなり後)しました。この時に話し合ったのは、夫婦でい続けるよりも、一生両親であることを選択して、息子のことを最優先にしようという決断でした。もちろん、その時には、パーソン・センタード・ケアの概念は、知りませんでしたが、息子のことを考えたら、おのずとそうなったのです。肝心の息子は、父親のことも私のことも、両親の別居も、ごく自然に受け入れてくれました。息子の父親は、2年前に亡くなりましたが、息子はコロナ禍にもかかわらずシドニーに渡り、父親の最期を看取(みと)ったのです。今も時々息子と私は「ダディは、こうだったよねえ」などと思い出話を共有しています。

 他の日常生活の中でのパーソン・センタード・ケアの例です。私は、両股関節手術後、要支援の身であり、身体障害者手帳保持者になりました。時々買い物の荷物を運ぶ時には、タクシーを使うことがあります。このタクシーの運転手さんも千差万別なんですよね!降車する際に、まだお金を出し終えていないのにドアを開けられ、さっさと降りてくれと言わんばかりの運転手さんもいれば、きちんと私の状況を把握してくれ、私の準備ができた時に初めてドアを開けてくれる運転手さんもいます。この違いは何でしょうか。冒頭に戻りますが、対象者を第3者と見られる観察力を持っているかどうかではないでしょうか。

 私は、イギリスで素晴らしいパーソン・センタード・ケアのワークショップに参加したので、トレーニングを重ねていけば、誰にでもできると思っています。しかし、それには、認知症ケアの真のプロの育成のトレーニングと行政からの支援が不可欠であると考えています。

2022年10月