コラム「母をみとる」

決断の時。

ゴミ処分

 母が亡くなったのは、2019年10月1日でした。あれからすでに3年と4カ月……いつまでもこの大きな実家に住み続けるわけにはいかない。どこかで、ずうっと思ってきました。実は、私自身は、ミニマルな、物を持たない生活に憧れているのです。

 そして、ついに重い腰を上げて、実家の遺品整理とゴミ処分に取り組むことにしました。友人たちから体力があるうちにやった方がいいよ、と言われたこともあります。そして、このアドバイスは、大正解! 母が遺(のこ)したあまりに量の多い物品に圧倒されてしまったのです。30〜40年前に出席した結婚式の引き出物など、包装紙も開けずにそのままとってある! 桐(きり)の箪笥(たんす)の中の着物や洋服の数々。ああ、母は、モノを捨てられない人だったなあ、と改めて認識させられました。母のみならず、父の洋服も木製の箪笥の中にそのまま残っているのです。

父の木製箪笥

 さて、ここからが、ドラマの始まりです。私の引っ越し先は、スンナリ決まりました。同じ地区の隣町です。そして、引越し先を決めた不動産屋さんから「横浜で一番安い」という触れ込みで、引越し業者=ゴミ処分取扱業者を紹介されました。

 早速、実家を見に来た50代ぐらいの男性は、遺品・ゴミ処分に数百万という数字を口にしたのです。ええっ? 思わず、聞き返してしまいましたよ。引っ越しそのものは、15万円、息子の荷物の移動に7万円。即<貴方(あなた)は、オーディションに落ちました!>と言いたかったけれど、頭に浮かんだのは、リサーチ、リサーチ、リサーチでした。

 幸い、昨今は、ネットですぐに引越しや遺品整理の業者さんは、リサーチできますからね。結果から言えば、30代の若い引越し業者さんを見つけ出しました。同じくゴミ処分もオッケー。引越しの料金は、4万4000円! トータルで最初の業者さんの3分の1程度の料金に収まったのです。何よりも驚いたのは、この業界には、決まった値段がないという衝撃的な事実でした。つまり、業者さんの言い値というわけです。

 値段もさることながら、この若い業者さんには、感心させられました。それは、途方に暮れている私の気持ちに寄り添って、話をしてくれたことです。疲労困憊して、ゴミ処分の見通しの先がまったく見えない……そんな時に遺品整理とゴミ処分をすべて引き受けてくれて、例えば、箪笥の中の洋服などは、そのままで大丈夫だからと言ってくれたのです。

 心底、ホッとしました。<捨てる神あれば、拾う神あり>ですよね! 本当の意味の断捨離の開始です。引越しの荷物をまとめれば、後は、すべて捨てる。幸い、センチメンタルな性格ではないので、バンバン捨てました。

 それにしても、当時者の立場に立って考える認知症ケア、パーソン・センタード・ケアは、どこでも、どの分野でも適応することができる。人生において、本当に重要なコンセプトであり、考え方です。できる人間は、自然とパーソン・センタード・ケアが、身についていますね!

2022年2月