コラム「母から学んだ認知症ケア」

齋藤先生とわたし

齋藤正彦先生(左)とわたし

 冒頭から私小説のようなタイトルですね! 齋藤先生とは、東京都立松沢病院名誉院長の齋藤正彦先生のことです。私が、日本中で一番信頼し、大好きな認知症専門医です。

 齋藤先生と知り合って、かれこれ5年になるでしょうか。今回びっくりして、とても嬉しいことがありました。

 齋藤先生が、ウェブに書かれている毎日新聞「医療プレミア」で、私の「毎アル」シリーズのことを取り上げてくださったのです。題して「命の尊厳とは何か 超高齢社会における認知症との向き合い方」
https://mainichi.jp/premier/health/斎藤正彦/

 認知症専門医、しかも精神科医に初めて映画の中の母と娘の関係を分析されてしまいました!(笑)引用しますね。

 関口さんのドキュメンタリーは、お母さんとの生活をリアルタイムで捉えています。私は、母を在宅で介護しませんでしたが、関口さんは、最期までお母さんと生活を続けました。ドキュメンタリーや著書「ボケたっていいじゃない」(飛鳥新社、13年)を拝見していると、介護する娘とされる母の記録ではなく、それぞれに歴史を持ち、しがらみを抱えた母娘の生活をとらえようとしていたという印象を受けます。

 齋藤先生のご指摘は、大変鋭いです。孫である息子が、いみじくも言ったようにアルツハイマーと診断されてもおばあちゃんは、おばあちゃんであり、私にとっては、どこまでも母でした。私も息子も<認知症>という色眼鏡をかけずに、関口宏子という人としっかりと向き合い、付き合う。特に母は、医師からも、介護業の人たちからも<認知症の関口宏子さん>と見られるのであれば、なおさらです。今一度、齋藤先生からの引用です。

 2人の関係には遠慮がなく、いつでも緊張をはらんでいます。たいていは母娘のユーモアが、緊張を適当な所で笑いに変えるのですが、それができず、激突寸前、危機一髪というところまでいくと、突然、娘、関口さんは、「ドキュメンタリー映画作家、関口祐加」となります。

 それは、プロの意識の表れなのだとは思いますが、同時に、第1作となる「毎日がアルツハイマー」撮影後、何年も続いた母娘二人の本音がぶつかり合う感情生活を荒廃させることなく豊かなものにし、継続させた秘訣(ひけつ)だったと思うのです。

 母の最期の時まで一緒に過ごすことが出来たのは、幸運だったと言えるのかも知れません。しかし、全ては、母の強固な意志だったのです。認知症ケアのエッセンスは、そんな主役の母の思いを認知症だからと決めつけずに理解し、介護する側の私は、脇役に徹して、母の思いを遂げるためのケアチームを作ることなのです。

 さて、齋藤先生とは続きがあります。私のラジオ番組「毎日がアルツハイマー!」にご出演頂いたのです(6月5日オンエア済み)。そして、齋藤先生の新著「アルツハイマー病になった母がみた世界」について語り合いました。あっという間の30分でした! 齋藤先生のお母様にも私の母にも最期まで強烈な自我があり、そんな認知症の親をみとるという共通の体験と対処法の違いなどを話しました。Podcastが作られたので、どこかでアーカイブを発表できないか模索をしています。この場で発表できたら、と思っています。

2023年6月