コラム「母から学んだ認知症ケア」

講演もパーソン・センタード・ケアで

オンライン講演会の様子

 2023年は、思い出すのもツライ年でした。長引くコロナ禍の影響をもろに受けてしまい、フリーランスで仕事をしている私は、ほとんどの上映会・講演会がなくなってしまったからです。

 しかし、24年新年に入ってすぐにSONYさんの「毎アル2(毎日がアルツハイマー2)」の上映が決まりました。1000人以上の社員の皆さんに見て頂く大上映会です。もう1件は、福岡県の社会福祉協議会主催の「毎アル」の上映です。こちらは、久しぶりに対面ですので、福岡にお邪魔します。この調子で24年は、講演つき上映会でお伺いして、突っ走りたいです。

 さて、今回は、講演のテーマについて書いてみたいと思います。12年の「毎アル」公開時よりありがたいことに講演会も始まりました。当初は、当然ながら、映画の上映とともに、私の視点から母の認知症ケアの話をしていました。しかし、13年に英国のヒューゴ・デ・ワール博士と出会って以来、講演の内容は、講演を依頼してくる人たちのニーズに合ったものにした方がいいと思うようになりました。

 たとえば、今回のSONYさんの場合ですが、会社が抱えている課題は<介護離職>です。今の大企業が抱える深刻な問題と言っていいかと思います。一方、福岡の福祉協議会からは、講演の内容に<介護虐待防止>を入れて欲しいと言われています。まさに、講演もパーソン・センタード・ケアで、ということですね。

 まず、介護離職についてですが、企業が、介護に対して姿勢を変えることが、必要であると思っています。1992年に育児休業、つまり育休ということが初めて単独の法律になりました。24年の今、私は介護休業が、育休と同じように必要だと考えています。1〜3カ月仕事を有給で休んで、家族の介護の手配をするのです。

 大企業の優秀な人材が、親御さんの介護で離職する時に、会社にいた時のように介護を捉えて実行しようとしてしまいます。働いていた時のように目の前の問題解決を敏速にしようとする。ここで、問題になるのは、問題の認識そのものということになります。この問題認識は<私から見た問題>であり、ケアを受ける当人の状況や思いは、含まれていません。ここが、認知症ケアの最も難しい点でしょうか。

 介護虐待についても同じように考えられます。ケアを受ける側にこうあってほしいという思いが強く、ケアを受ける側がそこに反応しないとフラストレーションがたまり、手が出たりしてしまう。なぜ介護虐待に至ってしまうのかという理由を考えることがとても重要なのです。結局は、全ては、介護をする側の問題であると認識することから始まると思います。

 昨年12月、私のラジオ番組「毎日がアルツハイマー!」に東京都立松沢病院精神科部長の今井淳司先生がご出演してくださいました。今井先生は、ご自分の精神疾患の患者さんに対して共感すること、さらに言えば、共感できるポイントを探し、理解し、実行することだとおっしゃいました。

 ある時、措置入院をする患者さんが、ビリビリに破ってしまったお薬手帳を修復したいと言ったそうです。大抵は、病院に到着してからゆっくりやればいいとか、新しい手帳をあげるから、ということを言う医師が多いそうです。今井先生の<共感するアプローチ>は、違います。お薬手帳の修復は、本人にとってとても大事だと認識し、その場でセロハンテープを探すか、購入して手渡すのです。本人は、一生懸命にお薬手帳を修復し、納得して落ち着いた頃を見計らって病院へ一緒に移動する。全く問題ないそうです。<共感する>=<パーソン・センタード・ケア>ですよね!

 <介護離職>でも<介護虐待>でも基本は、同じです。対象本人のニーズを徹底的に探り、理解し、行動を決めることです。ただ、家族には、かなり難しいのも事実です。ですから私が長く提唱してきている真の介護のプロの育成にもっと時間もお金もかけるべきだとこれからも言い続けたいと思います。

2024年2月