コラム「母から学んだ認知症ケア」

マーガレットさん逝去

マーガレットさんと私

 哀しい訃報が、イギリスから入って来ました。3月30日に私の友人であるマーガレットさんが亡くなりました。享年(きょうねん)90。この2月26日で90歳になったばかりでした。

 マーガレットさんとの出会いは、私がシドニーで製作した「FAT CHANCE」(2007年公開)の撮影の時でした。私はマーガレットさんと同じジムに通っていたのです。当時マーガレットさんは、ジムでの最年長の72歳で、一番健康的な人でした。

 その後、私は10年1月に母の介護のために帰国しましたが、マーガレットさんとの交流は続きました。電話したり、カードを送り合ったりしました。そして、シドニーで再会をしたのが、16年6月でした。「毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル〜最期に死ぬ時。」の撮影のためです。その時に、マーガレットさんが膀胱(ぼうこう)がんであることを告白され、ビックリした様子が、映画の中のシーンでも出てきます。

 旦那さんのフレッドさんは「友だちの中でも一番元気だったマーガレットが、がんになるなんて」と言っていましたが、私も全く同感でした。ただ、映画には出てきませんでしたが、実は、マーガレットさんは、認知症の初期でもあったのです。マフラーが大好きな私のために一緒にお茶をした後で、マフラーをプレゼントしてくれるという話になり、2人でマーガレットさんの銀行のATMへ行きました。ところが、マーガレットさんは、暗証番号を忘れてしまったらしく、なかなかお金を引き出すことができませんでした。

 その頃、母の認知症とも付き合っていたので、すぐにピンと来て、本人を傷つけないように、気に入ったマフラーが見当たらないので、またの機会にしましょう、と言いつつ、その場を離れたのでした。

 マーガレットさんは、予定通り手術をして膀胱全摘となり、ストーマをつけるようになりました。運動があまりできなくなると告げられたマーガレットさんは、軽いうつ病を発症してしまいました。この時にもシドニーの病院へ電話をして、たわいもない話をしたのです。ここから亡くなるまで、マーガレットさんにとっては、がんとの闘いだったと思います。ある意味では、認知症には、あまり焦点が当てられず、今となっては、よかったのか、悪かったのか……。

 オーストラリアでは、永住権を取っていなかったマーガレットさんご夫妻は、シニアの医療費が高額だったため、故郷の英国のマンチェスターに帰国。ちょうどコロナ禍前でした。英国では、高齢者の医療費は、無料ですから。

 その後もマーガレットさんのがんは転移してしまい、最後は、頭の手術もするという壮絶さでした。この5月に会いにいく計画を立てていました。共通の友人であるスティーブさんが、「マーガレットは、ファイターだからきっと大丈夫」と言っていた直後のことでした。

 マーガレットさんは、シドニーでシングルマザーになった私を気にかけ、当時まだ小学生だった息子のことをとても可愛がってくれました。息子が、念願のシェフになったことを一番喜んでくれたのもマーガレットさんでした。いつも文字だけではなく、写真を一緒に送っていました。

 今は、大きな喪失感に襲われています。予定通り、5月に渡英しようと考えています。

R.I.P. Margret. I love you xxx

2024年4月