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基調講演「歯は命の源泉」
東北大学大学院歯学研究科長・歯学部長 渡辺誠氏
厚生労働省の「全国歯科疾患実態調査」(平成11年)では、日本人の1人平均喪失歯数は20歳代前半で0.15、50歳代前半では4.37、60歳代前半で8.01、70歳代前半では15.56に及んでいます。50歳以降は年齢が10増すごとに喪失歯数は倍加する勢いにあるのが現実です。
80歳まで自分の歯を20本以上残そうという8020運動が始まったのは平成元年。10年余を経た平成11年、平均現在歯数が20本を上回るのは60~64歳までに過ぎず、目標達成者は15%にとどまります。この現状から痛感するのは、なぜ歯を残すことが重要かという科学的論拠の提示です。
先年、私たちは医学系研究科と共同で高齢者の総合的な心身機能の評価を行うべく、仙台市内一地域の居住高齢者を対象に大規模健診を実施しました。この種の疫学調査は全国初のもので、ここでは歯と命の深い関わりについて2つの事実に着目して報告したい。
1つ目は栄養。健康を保持する上で、必要十分な栄養摂取は欠かせません。ところが、現在歯数が少ない高齢者ではカルシウムやカリウム、ビタミンB1やCといった総食物繊維が不足。エネルギーやたんぱく質は生命保持に不可欠であり、歯数の減少は不健康の危険因子といえます。歯数が減ると咀嚼能力が低下し、同時に噛むことへの自信が失われる。食物選択の幅は狭まり、栄養の偏りや不足が生じるのです。
2つ目には脳です。痴呆の程度を計るMMSE(簡易精神機能検査)の点数から「正常群」「痴呆予備群」「痴呆の疑い」の3群に分かちますと、痴呆に近い群ほど現在歯数が少なかった。また、現在歯数が少ない人ほど計算や思考、記憶と関係する脳領域の容積が小さかった。脳は心身の機能を統べる中枢なのです。その健康がヒトの健康にどれほど重要かはいうまでもありません。口は脳に夥しい情報を送る発信源であり、歯数の減少がもたらす口の機能低下は、脳への情報量を減らし、脳の健康を損なうことが疑われるのです。
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渡辺誠(わたなべまこと)
東北大学歯学部卒、同大学院医学研究科修了。同大学歯学部付属病院長などを経て、2000年から現職。専門は加齢歯科学分野。歯の噛み合わせと口腔状態や脳、顎、全身機能の関係の追及がライフワーク。 |
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