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奈良シンポ  基調講演


 財団法人認知症予防財団と毎日新聞社、奈良新聞社共催のシンポジウム「認知症にどう対応するか」(厚生労働省・日本医師会など後援、アメリカンファミリー生命保険会社協賛)が昨年12月、奈良市の秋篠音楽堂で開かれた。会場には、認知症の介護や予防法に関心を寄せる市民約300人が参加、基調講演や介護専門家らの質疑応答に熱心に耳を傾けた。

基調講演
「21世紀の福祉社会を考える~“安心”“ゆとり”の老後生活を目指して」

岡沢憲芙氏(早稲田大学社会科学部教授)


 常識と非常職は時や空間で簡単に反転する。日本人の寿命がこんなに長くなると想定せずに我々は制度設計した。前例のないスピードで進んでいる少子高齢社会には、これまでの常識とは違う視点が必要だ。

 この国の平均寿命が50歳になったのは1947年。今の平均寿命は85歳だから生涯の持ち時間が30万6600時間も増えた。人生のチャンスが拡大したことは同時にリスクも拡大した。ところが、今の制度は1947年ごろに設計されたものだから変化した現実に対応しきれていない。

 21世紀の政策目標は安心とゆとりの創造だ。日常生活の不安には、病気、失職、老後生活などあるが、最近は結婚相手が見つからない、恋人ができないなど社会的孤立の不安が目立つ。我々の世代は「婚活」という造語が生まれてくるとは想像もしていなかった。一方、ゆとりは、時間、空間、経済、気持ちなどの中にある。だが、1人当たりのGDP(国内総生産)が3万㌦を超えている国にしては北欧に比べ空間的ゆとり、つまりユニバーサル・デザインなどの社会資本整備が遅れている。

 日本の平均寿命は女性86歳、男性79歳。高齢者人口2898万人。高齢者だけでオーストラリアや北欧5カ国の総人口より多い。高齢者人口がピークを迎える2028年には3473万人となり、カナダの総人口を上回る。要介護者数は520万人と予想され、認知症患者は最終的に445万人との推計もある。まさにウルトラ級の長寿社会だ。その時、かつての常識で未来の政策を選択しても適合不可能になる。平均寿命85歳の制度設計をしていく必要がある。

 これからの日本は総人口でも有権者数でも女性がマジョリティー。女性が過半数を占めるこの国で、介護の政策を決める国会に女性議員は10%しかいない。介護の最前線は妻か嫁か娘が85%担当している。しかし、意思決定過程に女性が10%しかいないと、介護の最前線情報がどこまで伝わるのか。スウェーデンでは国会議員の45%が女性だ。

 福祉政策を決定する上では、特に「リーダーの思想と哲学」「一人一人が自分の問題だという意識の定着」が大切だと思っている。福祉サービスの財源は天井から降ってくるのではなく、誰かが負担している。北欧は間接税25%を全員が負担して監視能力を高めた方がいいと発想した。その結果、無関心派が減り、情報公開も進んだ。日本は赤字国債で補てんし、800兆円を超えた。アイスランドの世界最初の女性大統領は「前例がないことは勇気を与えてくれる。前に進むしかないから」と言っている。


岡沢憲芙(おかざわ・のりお)氏 
早稲田大学社会科学部教授・同大学北欧研究所長。早稲田大学政治経済学部卒、同大学政治学研究科博士課程などを経て、ストックホルム大学客員研究員となる。スウェーデン国王より「北極星勲章」を受勲、「ポジティブ・スヴェリエ賞」も受賞。専攻は比較政治学。著書多数、近著に「スウェーデンの政治」(東京大学出版会)。

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