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高齢化社会 上海の今

上海のどこの公園でも必ず見かける太極拳を楽しむお年寄りたち

 上海の高齢者福祉・医療事情を視察するツアーに10月末、参加してきた。そこで見たものは、万博をはじめ経済発展著しい中国社会の元気な側面と同時に、日本以上のスピードで高齢社会に突き進んでいる隣国のまったなしの取り組みだった。

 ツアーは、環境新聞社が発行する高齢社会福祉の専門紙「シルバー新報」が募集。日中両国の行政や福祉関連企業の取り組みに詳しい王青(ワン・チン)さんをコーディネーター役にして、福祉サービス事業者やマスコミ関係者ら9人が参加した。

高齢化が進む上海

 上海が選ばれたのは、一人っ子政策を他都市に先駆け76年に実施したことや、医療水準の高さなどから、60歳以上の割合が全国平均(12%)の倍近い21%に達しており、中国の高齢社会に向けた福祉、医療政策の現状を視察するのに最適と思われたからである。

 王青さんの選んだ場所は▼上海市普陀区人民医院(中レベルの総合病院)▼上海市第三社会福利院(高齢者病院と総合高齢者施設からなり、ベッド数800床のうち250床を認知症対象とするなど、認知症の治療と研究、臨床における中国先進施設)▼親和源会員制養老社区(中国初のケアつき高齢者高級マンション)▼上海市黄浦区半淞園路街道社区(社区は人口10万人規模の行政区で、デイサービスや配膳センターが置かれている)で、2日かけて回った。

少人数でグループ分け

 視察先でもっとも興味深かったのは、認知症の治療と研究の先進施設とされる公設の「上海市第三社会福利院」。オランダなどヨーロッパの施設を参考に、入居者を9人程度の少人数グループにわける方式を中国で初めて採用するなど、海外との交流が活発だ。

 特別介護の場合、お年寄りとスタッフの割合は2対1と恵まれ、家具の持ち込み解禁も検討されるなど、利用者目線のサービスが売り。そのためか、入居希望の待機者は1200人に達する。

 このほか鍼灸、マッサージ、口腔治療、カラオケなど認知症にいいと思われるものはなんでも取り入れているという。

 確かにゲームセンターの運転マシーンのようにビジュアルな画面を見ながら運転する機械もあり、感覚を刺激するのには役立ちそうだ。しかし十分に活用しきれているのかなという疑問は残った。

少ないアルツハイマー型

 スタッフの話で驚かされたのは、現在入所する122人中、アルツハイマー型が3%で、ほとんどが脳血管性という報告だ。数字を確認する我々の質問に、「確かにアルツハイマーが少ないという声や検査方法が問題という指摘はある。いま議論を続けているが、それでも多くて10%ではないか」との返答だった。

ケアつき高級マンションの3LDKのゆったりした居間
ホテル並みの洗面所を備えた上海市第三社会福利院

 このやりとりだけでは即断できないが、日本をはじめ、多くの国でアルツハイマー病の割り合いが認知症の半分を超える現状を考えると、認知症をキチンと診断できるスタッフが育っていない可能性を感じた。

 日本を上回るスピードで経済成長を成し遂げつつある中国は、十分な社会資本やストックを蓄積する間もなく高齢社会を迎えようとしているが、認知症対策はとりわけ急を要するのではないか。

ケアつき高級マンション

 各施設の移動の間、バスの窓から見えるのは高度成長の象徴のように林立する高層ビル群だ。巨大なマネーは福祉方面にも向かっており、中国初のケアつき高齢者高級マンションと言われる民営の親和源会員制養老社区は、10万平方メートルの敷地に9棟の住宅棟とプールつきの健康クラブ棟や病院を併設し、部屋の広さも58平方メートルから120平方メートルまでとグレードが高い。現在、半数近い250組500人の夫婦が入居済み。転売も可能な所有型と居住権のみの終身型の二つのタイプがあり、平均価格は500万円から1000万円。中国の物価水準を考えると、年金生活のお年寄りでは手の届かない金額だ。

 お金で解決できる人はまだいいほうかもしれない。経済の発展は貧富の差を拡大する。また一人っ子政策によって、将来は親や祖父母6人の世話を孫1人でしなければならない事態も生まれそうだ。人口問題一つとっても中国の課題の大きさがうかがえる。

期待される社区の役割

 その解決策の一つとして期待されているのが社区である。上海市黄浦区半淞園路街道社区はデイサービスにお年寄りを集め、朝から夕食を済ませる時間まで、春節(旧正月)の7日間を除く毎日、健康体操やゲーム、音楽、マージャン、図書館等で楽しめるようにしている。またなるべく社会参加してもらおうと、万博期間中はボランティア活動に加わってもらった。少しでも長く元気でいてもらい、将来の医療・福祉予算の増大を防ごうという考え方だ。

 通えない人には訪問介護も行っている。

 公園に目を向ければ、おなじみの太極拳や社交ダンスが必ずどこかで演じられており、お年寄りの居場所としてはまずまずの機能を果たしそうだ。

 社区ですべてをまかなうには荷が重いが、中国伝統のソフトも取り入れつつ難関に立ち向かおうとしている。

2011年2月