財団報「新時代」に「心の旅路 寄り添う介護」を連載している臨床心理士の中田京子さんが、ハワイで開催された心理療法の国際会議に参加し、そのレポートを寄せてくれた。
今年の1月にハワイ島のコナで開催されたビジョン心理学トレーナーズカンファレンスに参加しました。ハワイ島は、豊かな自然に恵まれています。中でもコナは海岸に面し、サーフィンに人気の地だそうです。透明に澄んだ海にはたくさんの熱帯魚や亀が泳いでいます。日本では水槽でしか見られないものが、当たり前のように海の中で泳いでいるので、「あ!エンゼルフィッシュ」と叫んでしまうなどサプライズの連続でした。また、プルメリア、ストレリチア(極楽鳥花)、スパイダーリリーなど熱帯の花々が豊かに咲き、小鳥もたくさんいます。日本ではペットショップで売っている文鳥やカナリアなどが自然に飛び回り戯れているのを見ても、ため息をつきます。豊かな自然を満喫しながらの10日間でした。
カンファレンスには世界中からの参加者がいます。主な国はカナダ、ドイツとヨーロッパ各国、中国、日本です。すでに心理トレーナーとして活躍している人たちで、登録するのにも、社会貢献度やリーダーシップ、人格的成熟さなど厳正な審査が必要です。
カンファレンスはビジョン心理学の創始者であるチャックスぺザーノ博士夫妻による最新心理療法について、各国からのスピーチや、このカンファレンスの運営法についてなど盛りだくさんです。
組織運営も自分たちのあり方を体言するものとして水平的な関係(対等な関係)を目指しています。これはクライアントとの関係にも反映するものです。一人ずつ考えも性質も違い、さらには国や人種によっての個性の違いもある中、互いの意見や個性を尊重しあいます。
全体を通じて大きなテーマは、心理トレーナーの質(Quality)の向上及び保持についてです。ここでは心理トレーナーを指してはいますが、このテーマは、援助サービスをする職種の人に共通するものと思います。
日本においては、認知症関連だけでも、介護支援専門員(ケアマネージャー)、社会福祉士、介護福祉士等が、様々な組織の中で働いています。
より良質の援助をするには、技術や知識も大事ですが、援助者の誠実さ、意欲、成熟した人格などが根底に流れていると思います。
私は、主に精神障害の分野での援助の仕事をしていますが、どんな難事例にも安定した意欲的な援助が出来ると自負しています。それは、この心理トレーナーチームに属し、自分の質を磨き続けている成果だと思います。
私は、今春でこの仕事に就いて30年になります。ちょうど、その半分の15年ほど前に自分の危機にぶつかりました。人間関係の問題にぶつかり仕事への意欲も消失してしまいました。そんな時にビジョン心理学に出会いました。その速攻的な効果に驚きました。自分のマインドが自分の外の世界に映し出されるとした場合(投影の論理)、自分の問題も自分のマインドが映し出しているのですから、まずは自分のマインドを癒やすことで、問題は解決するのです。
この心理療法の効果は非常に高いです。自分が燃え尽きていれば相手に与えるパワーも湧きません。まずは自分が癒やされことです。ですから人を癒やすことは自分を癒やすことでもあるのです。
この視点からすれば、援助者が癒やされて安定している、成熟しているということが援助の質を高めるわけです。
カンファレンスの中で新しい心理療法を学びますが、まずは自分にその療法を実践します。ですから、毎日宿題の山でした。自分のチーム(各国別)や二人一組になって、休み時間や終了後に実践してみるのです。
今回、私が深く受け取ったものの一つが、癒着についてです。これは、相手の辛さを心理的に飲み込んでしまう心理現象のことです。子供時代は親との関係で起点があります(もちろん無意識にですが)。親の苦しみを無意識に助けようとして子供が飲み込んでしまうのです(逆の場合もあります)。
このことは、クライアントとの関係でも起こってきます。知らず知らずに互いの境界線が薄れて、クライアントの問題を飲み込み、巻き込まれていることが多々あります。相手から飲み込んだものを返すという心理療法を学びました。
ハードな日程ですが、ゆったりする時間もあります。写真にあるような夕日を見ながらの語り合う時間もあります。夕日が沈む時間に合わせて、休憩時間とし、皆で海に沈む夕日を眺めるのです。とても素敵な時間でした。
前半で触れましたが、このカンファレンスでは水平的関係を目指すと記しました。上下の関係ではなく対等の関係のことです。そして、あなたは私という見方です。自分のマインドの映し出すのが外界、相手とすれば、自分と相手という分離はないのです。この水平的な意識のおかげで、職場での人間関係は非常に良く、チームワークは抜群です。安定した自分がおり、チームワークで効率があがり、これもより良い援助の基盤になります。
この状況が自然に作り出せることが、トレーナーズカンファレンスに属していることの貴重な成果です。これが達成されていることが、生き生きとした自分の礎です。また、このカンファレンスのチームも、年々、水平的な関係となり、対立はなくなり、平和な穏やかなチームとなっています。
朝から夜までのスケジュールに宿題もあり、ハードです。毎日、カンファレンス終了後に、「夕食をどうするか」との課題?がありました。自然は豊かですが、レストランは徒歩20分行かないとありません。それで、日本人チームが考えたのは旅行用の鍋での炊飯です。お焦げのある炊き立てご飯のおいしいこと。ホテルにはキッチンはついていませんから、おかずはインスタント味噌汁や豆腐でしたが、この細やかな粗食夕飯に癒やされる毎日でした。
20011年3月