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認知症予防シンポ 漫画家の岡野さん特別講演「母に会いに行くという事」

聞き手・木下悟西日本新聞社編集委員

良かさ 生きてさえおれば

特別講演する岡野雄一さん

 木下 岡野さんの漫画本「ペコロスの母に会いに行く」のペコロスの意味は?

 岡野 西洋玉ねぎのことです。僕のはげ頭にそっくりなので、借用しました。母は要介護5。会いに行くと、僕のはげ頭をすごい勢いでたたく。風船と間違えているようです。でも母のリハビリになると思って5分ほどたたかせています。

 木下 お父さんが亡くなってから、お母さんの認知症状が出てきたそうですね。

 岡野 12年前、父が亡くなった年に母が転んで骨折した。2カ月入院している間に同じ病室のおばあさんから「少しおかしいよ」と言われました。僕はまだ、認知症という言葉すら知らず、「ちょいボケ」という言い回しで理解しました。その頃、タウン誌に8コマ漫画を描いていて、日常から少しずつずれていく母のエピソードを描き続けました。

 木下 つらい経験もあったでしょう。

 岡野 母を車でひきそうになったことがあります。夜、仕事から自宅に帰り、駐車する時、後ろにいたのです。きっと不安だったのでしょう。息子を出迎えに出てきた母の子どもみたいな笑顔が印象に残っています。悲惨というより、母がすごくかわいくなっていく過程が僕の中ではうれしくもありました。

 木下 その後、お母さんは急性脳梗塞(こうそく)になられた。

 岡野 ある日、母の部屋を開けると、布団の中でバタバタしていました。救急車で運び、そのまま車いす生活になりました。退院の時、在宅介護か施設に入れるか選択しなければなりませんでした。長男だから自分で世話をしなくては、という葛藤もありました。でも息子の顔も分からなくなった母を在宅でケアするのは現実問題として難しく、専門家に任せることが良い面もあるかもしれないと割り切りました。母は天草出身です。海の向こうに天草が見えるグループホームがあり、そこに入居しました。

 木下 「母の目の青い小箱」というタイトルの漫画には、岡野さんの思いが込められているようです。緑内障の症状があるお母さんの目の中には、お母さんが今まで見てきたものが全部入っている青い小箱があって、その箱の中からお母さんが「なんもかんも忘れてしもて……。よかろう?」と呼びかけるストーリーです。岡野さんはそれに答えていますね。

 岡野 「良かさ。生きてさえおれば」と。それが、僕の本音です。

岡野さんの漫画「ペコロスの母に会いに行く」(西日本新聞社)の一場面

 おかの・ゆういち 漫画家。1950年長崎県生まれ。出版社、広告代理店、ナイト系タウン誌編集長などを勤め、母が認知症となり施設入所と同時期にフリー宣言。マンガやイラストエッセーを描きながら今に至る。認知症の母をテーマにした漫画「ペコロスの母に会いに行く」は、介護のなかで起きる出来事を面白おかしく時に感動的に描いている。

2013年1月