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認知症患者に「自分史」絵本 秋田の会社がサービス

楽しい思い出 前向きな言動に

 認知症の人の貴重な思い出を自分史スタイルで絵本にする試みが秋田で話題になっている。いわゆる「回想法」にあたり、患者の言動が前向きになるなどの効果があったという。1月12日に毎日新聞の秋田版に掲載された記事を転載する。

 秋田市の「私の絵本カンパニー」が始めた認知症患者らの自分史を絵本にするサービスが注目されている。絵本を通じ、患者の言動が前向きになり、患者の家族や介護者の負担軽減につながっているという。

 代表の北林陽児さん(32)は「認知症になると、記憶が断片化して不安になったり、自分でできないことが出てきて自尊心が低下しがちになる。絵本を通じ、患者の楽しい思い出を呼び起こし、自信や誇りを取り戻せれば」と話す。

 北林さんが認知症患者のための絵本を作るきっかけとなったのは祖母。認知症を患った祖母は老人ホーム暮らしで、北林さんは頻繁に見舞いに訪れていた。

 しかし、祖母からは女学校時代の自慢話などを繰り返し聞かされた。さらに、緊急の用事ではないのに電話をかけてくることも少なくなかった。祖母のこれらの言動が「私たち家族の関係に悪い影響を与えていた」と当時を振り返る。

 北林さんは当時、会社を退職した後、帰郷していた。そううつ病と診断され、うつの状態や認知力の低下を身をもって経験し、認知症の患者の心情を理解できたという。認知症患者や高齢者のためのビジネスをできないかと考えた末、老人ホームで聞いた祖母の話を基に、祖母の自分史を絵本にしようと思いたった。「おばあちゃんのためだけじゃなくて、誰に渡しても読みたくなるものにしよう」と取りかかり、昔の写真を組み合わせるなどして完成させた。

 この絵本が祖母の症状を変えた。祖母は当初、結婚から出産ごろまでの記憶しかなかったが、絵本の写真や文を見ると、これまで口にしていなかった思い出を次々に語り始めた。表情が明るくなり、後ろ向きの発言も少なくなっていった。「声にも張りが出て、元気になって、10歳くらい若返った感じだった」と北林さん。

 何が祖母を変えたのか。認知症について調べてみると、「回想療法」にたどり着いた。それまでの人生を呼び起こされることで、言動が前向きになるケースがあるのだという。おかげで、患者が嫌がっていたデイサービスを利用するようになって、家族が自分の時間を持つことができるようになったなどの効果が記されていた。   

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回想法 昔の思い出を語り合うことで脳が刺激され、精神状態を安定させると言われている。グループで行う方法と、個人で行う方法があり、昔の写真やおもちゃ、映画、音楽のDVDを使いながら問いかけし、語り出した思い出に耳を傾けると、本人だけでなく聞いている方も楽しめるため、双方にメリットがある。

2014年3月