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自分史講座に一定の効果

「思い出ノート」検証 厚労省補助事業

 認知症予防財団は3月末、「思い出ノート」を使った講座「ライフレビュー(回想法)レクリエーション」(LRR)の効果を検証する事業の報告書をまとめた。統計学的に十分な効果を示すことはできなかったものの、受講した人たちからの聞き取り調査などでは「生活に前向きになった」「仕事への意欲がわいた」といった声が続々寄せられ、相当程度の効果があることが裏付けられた。

 毎日新聞社と認知症予防財団は、2018年から自分史をつくる講座を各地で開いている。テキストは認知症の非薬物療法、回想法をベースとした思い出ノート。財団は講座の効果を検証するため、厚生労働省の19年度老人保健健康増進等事業に応募し採択された。

 事業は東京都江東区在住の健常な高齢者57人を対象とした「研究1」と、大阪府阪南市、神奈川県海老名市、青森県十和田市の介護職員27人を対象とした「研究2」からなる。データ分析は松田修・上智大学総合人間科学部心理学科教授に委託し、検証作業はLRR評価委員会(委員長・新井平伊順天堂大名誉教授)が担当した。

 研究1では、江東区の住民を対象に昨年12月〜今年2月、LRRを3回実施。開始前と開始後にアンケートをし、「人生を振り返って満足できるか」などを問う生活満足度、認知症の理解度などを点数化したうえで、受講前後の変化を比べた。LRRを受講しなかった人との違いも調べた。

 その結果、点数の変化でLRRの効果を表すことはできなかった。それでも、参加者は「これからどう積極的に生きるか考えたい」「生活をしていく上で大変勉強になった」といった意見を書き込み、大半の人が今後の人生に前向きに臨む姿勢を示した。

 研究2は、介護職員にLRRを受けてもらい、受講した職員には施設で日ごろ接している高齢者に自分史づくりのコツを伝えてもらった。高齢者が職員の手助けを受けながら共同作業をする過程で、コミュニケーションが向上したか、職員の負担に変化はあったか、などを聞き取った。

 研究2も統計学的に数値で裏付けることはできなかった。しかし、職員へのインタビューでは「施設入居者の思いもよらない過去を知ることで、深い会話が可能になった」「人生の歩みを知り、この人をケアしたいという思いが強くなった」など、自分史づくりを通じて個人情報を得ることで、入居者らへの接し方が変わったという声を中心に高い評価が相次いだ。「今後もLRRをやってみたい」という人は27人中25人を占め、思い出ノートが持つ高い可能性の一端を示した。

 今回の調査は2度に渡る大型台風の襲来や新型コロナウイルスの影響で規模の縮小を迫られ、有効なデータを十分に得られない一因となった。全体評価について、新井評価委員長は「高齢者が実際の生活でどのような気持ちで日々を送っているのか、どのような不安を持っているのかといった生活の質を調査することの意義は大きい。研究のあり方は、その成果を実社会にいかに還元できるかといった観点が重要で、その意味で本研究は十分にその期待に応えるものだ」と語っている。

 ことば
 「思い出ノート」 認知症予防財団が監修し毎日新聞社が作成した。「もう一度会いたい友人」「一番やりがいのあった仕事」など、100の質問に答えながら自らの半生を書き込んでいけば、自然と自分史が出来上がる。大正7年以降の重大ニュースやヒット曲を並べた年表もついていて、その時々の年齢や思い出を記入できる。500円。

2020年4月