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アルツハイマー病新薬、条件付きで承認 米当局

 認知症の多くを占めるアルツハイマー病(AD)の治療薬候補「アデュカヌマブ」について、米国の食品医薬品局(FDA)は6月7日、製造販売を承認したと発表した。ADの原因物質とされる脳内の異常たんぱく質を減少させる効果を示したとしている。認知症の進行そのものを抑える薬の承認は世界初。ただ、追加の臨床試験が必要という条件付きの「迅速承認」で、結果次第では承認を取り消すこともあるとしている。アデュカヌマブは昨年12月、日本の厚生労働省にも承認申請が出されており、最短なら年内にも可否が示されることになりそうだ。

 アデュカヌマブは米国の製薬会社「バイオジェン」と日本の「エーザイ」が共同開発した。ADは異常たんぱく質「アミロイドβ(Aβ)」が20年以上かけて脳内にたまり、神経細胞を壊すことで発症する説が最有力だ。今回の臨床試験は3482人の患者を対象に実施し、薬は月1回点滴で投与した。FDAは、治療を受けた患者群は投与量と時間に応じてAβが減少した一方、にせ薬を使った対照群ではAβの減少がみられなかったとし「データを詳細に検証した結果、迅速承認すべきだという結論に達した」としている。

 バイオジェンによると、投与群は対照群に比べて認知機能の低下が2割抑えられたという。アデュカヌマブは認知症手前の軽度認知障害(MCI)段階から投与でき、認知機能の低下を長期間抑える効果が期待される。これまで日本などで承認済みの4種類の薬は残存する神経細胞を活性化することなどによってADの進行を一時的に遅らせる効果しかなかった。

 ただし、今回の承認は深刻な病気の人に早期に治療を始めるための「迅速承認」という制度によるものだ。FDAは承認に際して「有効性の面で不確実性は残っているが、患者への利益がリスクを上回る」としており、承認の条件として追加の臨床試験を挙げた。

 実際、2007年に開発が始まったアデュカヌマブを巡っては紆余曲折が続いた。初期の治験では大きな効果がみられたとして脚光を浴びたものの、19年3月には有効性の証明は難しいと判断され、臨床試験の中止に追い込まれた。ところがその後、未集計のデータも含めて見直したところ、投与量が多かった患者には効果があることが分かったとして、20年7月、FDAに承認を申請。これに対し、同11月には外部の専門家委員会が承認に否定的な見解を示し、FDAは追加のデータを求めて審査期間を3カ月延ばしていた。

 世界保健機関(WHO)は現在世界中に認知症の人が約5000万人いて、30年後には1億5200万人に増えると推計している。日本は約600万人とみられ、その6〜7割程度はADとされている。「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事は「新たな扉を開く希望の光」と歓迎し、ADについて「『治療可能性のある疾患』と理解されるようになり、認知症のイメージが大きく変わるきっかけになってほしい」と訴えて日本での早期承認を求めた。田村憲久厚労相は「画期的な方法の治療薬と思うが、(日本では)安全性、有効性を確認している最中で、しっかりと確認した上で対応する」と語った。

 ただ、課題も少なくない。アデュカヌマブはAβの除去はできても、一度壊れた神経細胞の修復はできない。早期から予防的に投与する必要があり、認知症が進行した人への効果は疑わしい。値段も高額になると見込まるほか、臨床試験では脳の腫れや頭痛などの副作用も生じている。

 バイオジェンとエーザイはやはりAβを標的とした「レカネマブ」の開発も手がけており、こちらも最終段階を迎えている。

●ことば
 アルツハイマー病 脳が萎縮して「老人斑」というシミが広がり、神経細胞に糸くず状の「神経原線維変化」が見つかるようになる。発症すると記憶に障害が起きたり、時間や場所を認識できなくなったりする。病名は約100年前に発見したドイツの精神科医の名前に基づく。

2021年6月