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若年性認知症の人の就労支援 滋賀のNPOが10年

藤本直規理事長

 滋賀県守山市を中心に、若年性認知症の人や家族を支えてきたNPO法人「もの忘れカフェの仲間たち」(藤本直規理事長)による就労支援の拠点「仕事の場」の活動が今年で10年を迎えた。この間、多くの人に希望をもたらしてきたが、県内に就労の場が増え、また新型コロナウイルスの影響による制約もあり、藤本氏は今年でNPOを解散するといったんは決めた。しかし社会的な使命も踏まえて再考し、新たな取り組みを試行錯誤しつつ「再出発」することにした。

 藤本氏は1999年、同市にもの忘れクリニックを開設。当時は現役で認知症と診断されれば退職するほかなく、50〜60歳の若年性認知症の人が居場所を見いだすのは難しかった。このためクリニック内に精神科デイケアを開き、2004年にはボランティア活動など社会参加を大切にしつつ、活動内容は参加者自らが決めるデイサービスセンター(DS)「もの忘れカフェ」を作った。その後、診断の早期化で働きながら受診する人が増えるにつれて「退職後も対価を得て社会の役に立ちたい」という要望が強まり、11年には企業から請け負った玩具の部品作りを週1度手がける、若年性認知症の人を対象とした「仕事の場」を設けた。

 地元医師会の協力、藤本氏や奥村典子DS所長らの尽力で「仕事の場」での内職は箱作り、パンフレットの袋入れなど次々広がり、受注先の企業は10社に増えた。家族や行政も巻き込み、参加者も当初は3人だったのが高齢の軽度認知障害(MCI)の人や、発達障害の人、学校や社会に適応しにくい若者、老人会の人たちも加わって毎回40〜50人に膨らむようになった。月に数千円の賃金でも「自分で稼いだお金は格別」と生きがいを見いだし、人生をあきらめず、また診断内容を受け入れるようになる人が続いたという。

 「仕事の場」は、できなくなったことをケアによって再びできるようにすることも目的だが、認知症が進めばいずれは「卒業」し、デイサービスなどに移行することになる。その時々の病状を受け入れながら、「次の居場所」へスムーズに移れるようにすることが、「仕事の場」のもう一つの目的でもある。そうした時期を迎えた人への接し方について、藤本氏は「決定的な解決法はない」としつつ、同クリニックでは個々の症状や性格、人生の歴史なども考慮し、症状について丁寧な話し合いをして当事者の理解を得ている。

 ただ、活動を続けていくに際し、昨年来のコロナ禍は想定外だった。「仕事の場」の活動は制限されている。一方で、滋賀県内では企業と行政が連携した「就労継続支援」によって就労の場が増え、認知症と診断された後もおおむね定年まで仕事を続けられる環境が整いつつあるという。県から委託を受けた同クリニックが専門職への研修を重ね、「相談センター」や「仕事の場」が七つの保健所圏域に設置されたことなどだ。藤本氏はNPOの解散を考え、今年3月にこれまでの活動を振り返った報告書をまとめた。

 それでも、病状や年齢層にかかわらず多様な認知症の人がともに自主活動できる場所の充実など、さらにできることはあると思い直した。NPOが目指すデンマーク発祥の社会福祉の理念「ノーマライゼーション」(誰もが普通に暮らせる社会)に一歩でも近づけるべく、「互いが助け合う」「本人たちが決める」ことを大切にしながら活動しているDSの取り組みを情報発信し、広く共有することなどを模索している。

 同クリニックの20年の活動歴をまとめた「若年認知症を中心とした様々な取り組み『仕事の場』のあゆみ」を希望する人は、送料370円で入手可能。連絡は医療法人藤本クリニック(https://www.fujimoto-clinic.net)まで。

2021年6月