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認知症と腸内細菌 食習慣通じて予防・改善へ

 認知機能と腸内細菌の関係、「脳腸相関」に関する研究が近年注目を集めている。一部腸内細菌の作る物質が脳の炎症を引き起こすなどし、認知症の原因となっている可能性があるためだ。関係する論文も世界中で急増しており、食習慣を通じて腸内環境を整え、認知症予防につなげる研究が今後一層盛んになりそうだ。

 脳と腸は自律神経などを通じて深く関連している。ストレスを感じると、ストレスホルモンによって腹の調子が悪くなることはよく知られている。こうした脳腸相関の一つとして、腸内細菌が脳の働きを左右している可能性が数多く指摘されるようになってきた。

 今年4月、認知症の早期対策の重要性を啓発する目的で、複数の専門医を世話人として発足した「40代からの認知症リスク低減機構」(代表世話人・新井平伊アルツクリニック東京院長)は主要テーマの一つに「食」を据え、さらに腸内細菌の一種、ビフィズス菌の認知症予防・改善効果を調べていくとしている。中心となるのは世話人の一人、国立長寿医療研究センターの佐治直樹・もの忘れセンター副センター長だ。

 佐治氏ら同センターの研究チームは2019年以降、腸内細菌と認知症の関連を示す研究結果を次々発表している。中でも16年1月にスタートさせた、人の便などから腸内細菌の構成割合を調べて認知症の有無と突き合わせた研究は関心を呼び、各地で脳腸相関に関する研究が始まる契機となった。

 人の腸には1000種類以上の細菌がおり、食習慣などによって細菌の構成割合は変わる。佐治氏らが着目した細菌は、腸内細菌全体の2~4割程度存在し、善玉にも悪玉にもなる「日和見菌」とされているバクテロイデス菌だ。

 60~80代の人128人(平均年齢74歳)を認知症でない群(94人)と認知症の群(34人)に分け、バクテロイデス菌が腸内細菌の3割以上いる人(エンテロタイプ1)を調べたところ、認知症でない群では45%がこのタイプだった。これに対し、認知症の群ではこのタイプが15%にとどまり、種類の分からない細菌の多い人(エンテロタイプ3)が85%を占めていた。これにより、エンテロタイプ1の人はそうでない人に比べて認知症になるリスクが10分の1程度と見積もられた。

 腸内細菌の構成割合は、認知症になる手前の軽度認知障害(MCI)の段階から変わることも明らかとなった。腸内細菌の変化はMCIになるリスクを5倍高めるという。ただ、MCIの人はそうでない人よりバクテロイデス菌が多い傾向がみられ、佐治氏は「バクテロイデス菌が認知機能によいか悪いかは判明していない」と話す。また、腸内細菌が認知症の原因なのか、認知症になった結果、腸内細菌に変化が生じたかについても、因果関係は不明という。

 それでも、認知機能と腸に関する研究は急激に増えており、▽アルツハイマー病(AD)の原因物質とされるアミロイドβの蓄積に腸内細菌が関係している可能性▽ADの人の腸内はビフィズス菌の割合が小さい――などの調査結果が続々発表されている。佐治氏らの別の調査でも、認知症の人の便にはアンモニアが多く、乳酸が少ないことなどが判明した。佐治氏は「腸内細菌や食事と認知機能には強い関連がある」と指摘しており、今後因果関係の解明や、腸脳相関に関与するバイオマーカー(生物学的な変化を把握するための指標となる物質)などを調べることにしている。

2021年8月