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認知症110番が30周年

 公益財団法人 認知症予防財団による無料の電話相談「認知症110番」は2022年に発足30年を迎える。相談内容は時代とともに変遷してきた。それでも電話をかけてくる人に寄り添う相談員の姿勢は、まったく変わっていない。

 「被害妄想の母が貯金を横取りしたと私を責める」「父が運転免許の返納を強く拒む」−−。「認知症110番」には日々、こうした相談が寄せられる。

 とはいえ20年度下半期の相談件数で見ると、対応方法の助言は2位(34%)で、1位は励ましや慰めなどの精神的支援(53%)だ。親を施設に入れるか否かで悩み続け、心の安定を求めて何十回と電話してくる人も珍しくない。相談員は「自分を大切にする」「人の力を借りる」ことの大切さを伝え、後ろめたさを抱く人の心をほぐしていく。

 開設時からの相談員、ソーシャルワーカーの長島喜一さん(73)によると、当初は「寝たきり」への対応法を尋ねる電話が多かった。今と違って認知症の人の社会参加はまれで、屋内から出ることのない人も多かったためだ。そもそも認知症という言葉もなく、認知機能が下がった親を「恥」だと隠そうとする人も大勢いたという。

 それが近年は外出する認知症の人も増え、寝たきりの相談はめっきり減った。ネットでケアなどに関する知識を得られるようになり、ネット情報を踏まえた問い合わせが増えている。相談内容は施設への不満から相続問題まで幅が広がっている。

 この30年間で大きく変わったのが相談者の続き柄だ。1992年、1位の「娘」(39%)に次いで多かったのは「息子の配偶者」(19%)で、02年には29%を占めた。ところが「介護は長男の嫁の役割」との考えが薄れるにつれて割合も減り、20年度下半期は5%にまで下がった。半面、「娘」は55%に達し、介護を受ける人の居住形態も「独身の子との同居」が36%で群を抜く。未婚率の急増を反映し、「同居の未婚の娘」による介護の増加がうかがえる。

 また、相談者は「本人」が徐々に増えている。02年には6%だったのが20年度下半期は9%となった。「私は大丈夫か」との相談が多く、認知症への関心の高まりを裏付けている。

 00年度の介護保険スタートを機に、要介護者への手当てはそれなりに進んだ。しかし「介護で仕事をやめ、収入ゼロ」「親の年金頼み」といった相談は依然絶えない。癒やしや心の支えを求めて電話をしてくる人も増え続けている。長島さんは「介護家族への支援が進んでいない。介護者の人生を支えることが政策の課題だ」と指摘している。

 「認知症110番」は財政難から存続が危ぶまれており、寄付を募っている。長年相談員を指導している桜美林大学の長田久雄教授(老年心理学)は「認知症の電話相談は各地で行われるようになったが、『認知症110番』は草分け的存在で、駆け込み寺の役割を果たしてきた。介護で孤立する人の心を支えるという独自の意義が薄れることはない」と話している。

◎ことば

 「認知症110番」 原則月、木曜の10〜15時にフリーダイヤル0120-65-4874(ろうご・しんぱいなし)で受け付け。看護、介護や心理などの専門家が無料で相談に応じる。「ぼけ110番」の名で92年7月に開設、その後今の名称に変更し、延べ3万人の悩みに応えてきた。予約のうえ、順天堂大の専門医に電話で相談できる体制も整えている。毎日新聞社との共催。

2021年12月