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AD兆候 血液から判別/早期診断、実用化へ期待

 アルツハイマー型認知症(AD)の兆候を血液から見つけ出す技術が実用化されつつある。いずれもADの原因物質とされる異常たんぱく質、アミロイドβ(Aβ)の脳内への蓄積度合いを数滴の血液で測定するものだ。普及すれば数千円で認知症の有無が分かるようになる可能性があるほか、Aβの蓄積が少ないうちに発見することで認知症の進行予防につなげることも期待されている。

 ADは20〜30年かけて脳内に蓄積したAβなどが神経細胞に作用して発症する説が最有力。Aβの蓄積量を調べるには陽電子放射断層撮影(PET)装置で撮影するのが一番正確だ。しかし、1回で数十万円と高額なのがネック。腰への注射で脳脊髄(せきずい)液を抜き出す手法もあるものの、検査を受ける人の負担が大きい。一般的な磁気共鳴画像化装置(MRI)による撮影は画像が粗く、症状がある程度進行した後でないと診断するのが難しい。

 こうしたなか、計測機器メーカの島津製作所(京都市)は、既に血液中のAβの関連物質を測定できる装置を世界で初めて製品化し、2020年12月に厚生労働省の医療機器承認を得た。また、臨床検査受託大手のH・U・グループホールディングス(東京都新宿区)は近く検査試薬を発売する。さらに昨年末には医療機器メーカーのシスメックス(神戸市)が同省に試薬の製造販売承認を申請した。

 島津製作所の装置はノーベル化学賞受賞者で同社エグゼクティブ・リサーチフェローの田中耕一氏が開発した分析手法を使っている。血液中のAβの関連物質「アミロイドペプチド」を質量分析計で測定するものだ。ただ現時点では、得られたデータは診断の補助的な情報としてしか使えない。同社は実績を積み、診断に使えるようにする変更申請を考えている。

 一方、シスメックスの試薬は、製剤大手、エーザイとの共同開発で生まれた。病院で普通に使われている血液分析装置と組み合わせ、Aβの蓄積量を20分以内で測定できる。23年度早期の発売を目指す。H・U・社の試薬も、広く普及している同社の血液検査装置を使い測定する。診断用に向けた承認申請も検討している。

 米国で仮承認された「アデュカヌマブ」など、開発が進む認知症薬はAβの除去によってADを治療することを狙っている。投与には脳内のAβ蓄積量を調べる必要があり、血液での判定が普及すればコストをかけず薬を処方できるようになる。

2022年2月