トピックス

公開講座の講演要旨
「可能になってきた認知症予防」(新井平伊氏)

2次、3次予防が重要

 米国のバイデン大統領が一昨年11月に勝利宣言をした時、人類が克服すべき病気として、がんの前にアルツハイマー病を掲げたことはとても印象的だった。日本では令和元年に認知症の政策大綱が発表された。政府は「共生と予防」と言って、国の政策として予防を掲げた。画期的なことだ。

 予防と言うと「認知症にならない」ということが頭に浮かぶと思うが、それは1次予防。実際には2次予防、3次予防が大事。1次予防が可能な病気は医学がこれだけ発展してもないと言えばない。「発症させない」のは認知症でも今のところ難しい。しかし、2次予防、つまり発症を遅らせる、それから進行を遅らせる3次予防、残念ながら病気になってしまってからでも症状の進行を遅らせることが可能になってきたのがポイントだ。

 なぜ可能になってきたかと言うと、認知症になりやすい因子が分かってきたこと、それから発症前の状態が分かってきたということがある。これまではアルツハイマーかそうでないかの2分法だったが、今はその二つの間に「主観的な認知機能低下」(SCD)と「軽度認知障害」(MCI)が入ってきた。それぞれまだ日常生活、仕事は普通にできるが、物忘れがちょっとある、そのことに悩み始めるという段階だ。

 SCD、MCIは予防の観点からは非常に重要になってくる。その段階で既に脳の中では変化が起きていることが分かってきたからだ。アルツハイマー病は認知症の7割を占める病気なので、一番の大敵。MCIの後期になって初めて、心理検査とか脳ドックで脳のMRIを撮ったときに異常が出てくる。しかし、これはもう発症直前の段階。実際には、脳内では20〜25年かけて(原因物質とされる)アミロイドたんぱくがたまる変化が起きている。要するに病気は徐々に進み、認知症はアミロイドたんぱくがたまり始めてから20年たった段階で発症する。この発症前の段階をいかに早く見つけて対策をとるかというのが最新の医学。こうしたいわゆる「先制医療」というようなことも視野に入るようになってきた。

生活習慣病のコントロールを

 今後開発される薬も、(発症前の)この段階でどう使うかというものになってくる。我々のところでは「健脳ドック」と言っていて、(脳内にたまった微量のアミロイドを発見できる)「アミロイドPET」を導入した。MRIでは変化を見つけられない段階、しかしアミロイドはたまってきているという、この最初の段階を見つけようというものだ。

 それではどうしたら予防ができるのか。医学ジャーナル、ランセットの論文に、中年期、老年期に気をつけてほしいことが挙げられている。聴力低下、頭部外傷、高血圧、飲酒、それから肥満、喫煙、うつ病、社会的孤立、運動不足、大気汚染、糖尿病など。これらを社会的にも個人のレベルでも制圧していくと、患者が40%減るという推計も出ている。こうした危険因子が分かってきたことがとても重要になっている。

 一番大事なのは何と言っても生活習慣病。糖尿病とか高血圧とか高脂血症、コレステロールが高いという方はきちんとコントロールしておくということ。それから聴力。低下している場合は補聴器などを使って情報が入るようにしておくことがとても大事だ。また、暴飲暴食、タバコも避けたい。酒は健康、ストレス解消のために重要ではあるが、物忘れが気になり始めたときには注意していただきたい。(予防効果が見込めるのは)運動、対人ゲーム、それから、適度な睡眠。睡眠は6時間半から7時間がベストと言われている。運動と対人ゲームは私どもの健脳カフェでも実践している。

アミロイドPETなら早期発見が可能

 ポイントは先ほどから話している「主観的な認知機能低下」(SCD)。あとはSCDから「軽度認知障害」(MCI)の段階が重要。この段階で何もしないでいると、5〜15%の人が認知症のレベルに進んでしまう。だが、その前の段階で先ほど言った予防策をとると、データ上では16〜41%が回復している。私の患者さんのデータでも、最初MCIだった人が生活改善をしていくことで正常域に回復していることが見て取れる。認知症になる前にいろいろ試みることはとても重要だ。

 とはいえ、なかなか自分ではこういった予防活動を実践できないのが現状だろう。では、どうすれば可能かと考えた。私たちは東京駅のすぐ近くに「アルツクリニック東京」を開設している。アルツはアルツハイマーにもかけた言葉だが、実はアクティブ・ライフ・ジールの略で「情熱的な人生のために」がモットー。クリニックでの治療とともに、アミロイドPETを中心とした健脳ドックで、アルツハイマー病を発症の20年前から見つけようということをしている。ただ、これだけではなかなか予防活動はできない、ということで「健脳カフェ」を導入した。ここで発症を遅らせる2次予防を中心に展開していこうと考えた。クリニックでの治療、健脳ドック、健脳カフェの三つの輪で初めて私が目的としていることが成立すると思っている。

「健脳カフェ」は2次予防重視の施設

 全国には認知症カフェ、デイサービスが普及している。これらは残念ながら発症した後のサービス。介護保険を使っている人、認知症がある程度進んだ方がそれ以上進まないようにする、要は3次予防のための施設。我々のところは発症より前の段階を重視しており、そこが一番の違い。我々は3次予防ではなく、発症前のSCD、MCIの方を対象に2次予防を徹底したいという施設だ。

 健脳カフェでは、運動や世代間の交流、また音楽を楽しんだり、対人ゲームを楽しんだりといったスペースがある。プログラムは、生涯健康社会推進機構さん、ラクティブさん、ルネサンスさん、日本音楽健康協会さんなどの協力をいただいている。毎日運動系を入れているし、それ以外でも対人ゲームの麻雀、絵画などいろいろなプログラムを午前と午後に設定している。全く予約なしで、予防に興味がある方ならどなたでも参加いただける。午前は10時から12時半、午後は2時から4時半、この時間内で出入り自由としている。

 ただ、この場所(東京・四谷)でやると参加できるのは近隣の方などに限られてしまう。もっと普及させたいので、今年4月ごろからオンラインでこれらのプログラム、特に体操に(視聴者が)参加できるようにし、あと私や認知症の人と家族の会、松田修先生らカフェに関わっているスタッフが、ライブでいろいろ相談を受けられるようにしたい。2時間のライブ放送をする、オンラインで予防を目指すカフェにすることを目標としている。今日はその第一歩になると思っている。脳、身体も健康に一生過ごしていける流れを皆さんと一緒に作っていけたらいい。

「認知機能低下とともに生きるには」(松田修氏)

認知機能低下の仕方は人それぞれ

 認知機能の低下は老化でも認知症疾患でも起こる。正常な老化、MCI(軽度認知障害)くらいから出てくる軽微だが日常生活に影響を及ぼす認知機能低下、これによって起こる物忘れ、失敗をうまく工夫することで防ぎ、より生き生きと暮らす工夫について私の専門の一つ、臨床心理学と神経心理学を合体させた「臨床神経心理学」の立場からお話する。

 私の場合、主に高齢者の方を対象にしているので、老年臨床心理学と名乗ることもある。具体的には脳の疾患や損傷による記憶力の障害がどの程度か、どういう種類の記憶が難しくなっているか、またどういう種類の記憶、あるいはどんな覚え方なら能力を保持しているかについて評価し、さらに治療、リハビリに関わる分野を包括する学問だ。人間の心は脳の働きであり感情、意欲、動機づけなどに関わるが、そういう心の働きを可視化して測定し、評価する。一方、治療やリハビリは2次、3次予防の実践活動となる。

 認知機能と言っても幅広く、記憶の他にも情報処理などいろんな能力がある。米国精神医学会の新しい診断基準の中にある神経認知機能には6つの領域があり、MCIや認知症と関係があると言われている。

 心理学の分野はさらに細かく分かれていて、人間の認知機能は10くらいの領域があると考えられている。私も日本語版作成に関わった新しい世界的な心理検査「ウエクスラー知能検査」では、少しまとめて5つくらいの能力で人間の能力を測っている。全般的な認知機能のレベルは同じでも1人ひとりプロフィールは違うので、その方に合った支援の仕方を研究している。

個人差をつかみ支援につなげる

 認知機能の低下の仕方は、その領域によってかなり違う。90歳までを対象にできる、能力を4領域に分けて調べた知能検査によると、情報処理のスピードが一番速く低下していく。これに対し、言葉、知識、経験など、主に言語を使う力の低下はそれほど早く起こらず比較的保持されている。また個人差も大きく、老年期になっても認知機能の低下がさほどない方、アルツハイマーが始まっても進行の遅い方、その方たちが、40代、50代、60代にどんな過ごし方をしていたのかを振り返り、個人差を生じさせる要因を調べている。その知見を認知症の2次予防、3次予防に生かしていきたい。

 アルツハイマー病でも、患者によって能力の落ち方が違う。記憶力は落ちていても論理的に考える力は保っている、直前のことは忘れても過去に蓄積した力がたくさんあるので、その知識を活かしていくとまだ活躍できるチャンスは大いにある。そういうことを見つけていく仕事をしている。

 心理検査は検査をする側の力量、私は「検査者能」と呼んでいるが、この力がとても大切。今は我々が使う検査がネット上に出回っている。娘さんとかがお母さんにネットで見つけた検査に沿って質問し、「できないからダメじゃん」と言ってお母さんが傷ついたり、娘さんも「しなきゃよかった」と思ったりすることがある。もっと言えば、病院で心が傷つくような検査を体験し、もう病院に行きたくないとなったら何にもならない。検査者能を高めることは重要で、学生にも「検査が目的ではない。その方に必要な情報を得るために我々が努力することが重要」と伝えている。

 言葉の力は結晶のようにどんどん固まっていくので「結晶性の能力」と呼ばれる。結晶性の能力は加齢によっても保持されるため、その方が元々持っている知識とうまく結びつけると、認知機能が低下しても情報のやりとりが十分にできる。

「代償機能」でカバー

(1)NTTJALTBSANA
(2)AXHOUNPQIWLM。

 これ、覚えられるだろうか。同じ文字数だが、(1)はさっと覚えられたのでは。(NTT、JALなど)元々知っている知識が記憶を助けている。情報が組織化されていたり、つながりがあったりすると記憶力が低下した方でも覚えられる。その元々の力を評価し、見合った情報を提示したり、支援をしたりすることで認知機能の低下をカバーできる。私はこれを「内的代償法」と呼んでリハビリなどに役立てている。

 内的代償法に対応し、認知的な活動によって心と脳が豊かになる刺激を与え、外にある資源を活用する「外的代償法」も実践している。この二つの代償法を認知リハビリテーションと呼んでいる。前頭葉の機能に焦点を当てたもの、コミュニケーションを重視した活動、あと、仲間とうまくできたというような体験を通じ、自尊感情や自己肯定感を高め心の健康状態を改善すること。これらによって障害の影響を健康な部分がカバーしやすくなり、使わないことで機能が衰える廃用の予防にもつながる。楽しいと思える活動、そこで自分が役に立つと自己肯定感が上がる。社会的孤立も予防され、認知機能が低下しても人とのつながりが維持できる。これが認知症の2次予防、3次予防に大きく貢献するんじゃないかと考えている。

共同作業で達成感を

 健脳カフェでは学生たちが高齢者の方と世代間交流をしている。脳と心に豊かな刺激になればという思いからだ。学生の卒業研究によると、人との関わると幸福度が上がるし、コロナ禍のなか、孫などとの関わりではオンラインでも対面とほぼ同じ幸福感を得られるという結果が出ている。こうした支援に併せて、保持された機能でどういう工夫をすると日常生活の失敗が減るかというアプローチも、このカフェでできればいいと思っている。 実例を挙げる。記憶力、時間の見当識は落ちたけれど言語とか推理力は保っている方で、出かける時に持って行くものを探すのが大変、という方向けに「メモリーバッグ」を考えた。単純だが、中に何が入っているかメモにして言葉で示し、バッグの中には持ち物をひとまとめに入れて置いておくことを習慣化した。もちろん、言語能力、推理力が保たれているから扱えるのであり、すべての人にいいわけではないので家を張り紙だらけにしないようにしてほしい。

 また、薬を飲んだかどうか忘れてしまう人がいた。ただ計算能力は保たれていた。数えれば分かるだろうと思い、(薬を取り出したあとの穴が開いた)空を捨てず、空の数を数える、もしくは何個穴が開いたかを数えてみると飲んだかどうか分かるとアドバイスをしたケースもあった。

 普通、メモは覚えなきゃいけないことを書く。それでも、買い物に行ったときに「メモに書き忘れちゃったかな」と不安になって不要なものを買っしまう方には買わなくていいものもメモに記し、そのメモに家族の中でこの人が確認していたら安心、という方のサインをもらうような工夫もしてきた。

 安心して話せる仲間の存在は大切。こういうカフェの場で初めて会った方、顔見知りになった方と関わることが大事だし、1人でやるより誰かとやった方が効率いい。特に長年連れ添った夫婦での活動はいい。1人ではできない達成感を味わえることが、2次予防、3次予防につながっていけばいいと思っている。

以下は公開講座当日、視聴者から寄せられた質問に対する新井、松田両氏の回答

質問1認知症予防に効果のある食べものというものを、別のところで聞いたことがありますが、実際にどういう栄養素・食べ物が効果があるのでしょうか?

新井 アルツハイマー病を始めとする神経変性疾患による認知症は複雑な病態なので、一つの食べ物とか栄養素で症状改善は期待できません。バランスの良い食事、生活習慣病予防に良い料理がお勧めです。


質問2松田先生の講義についてご質問です。 今日のお話でも出てきた、「公認心理師の資格」を私も取りたいと思ったのですが、50代の私は、これから資格取得のためにまず何をすればよいでしょうか?

松田 もっとも基本的なルートは、指定されたカリキュラムのある大学および大学院で所定の単位を収め、国家試験の受験資格を受ける、というものです。詳しいことは、所管の文部科学省と厚生労働省の指定試験機関・指定登録機関である日本心理研修センターにお問い合わせください。
http://shinri-kenshu.jp


質問3オンライン予防カフェのアイデアいいですネ。海外からの参加も考えて下さい。

新井 ありがとうございます。海外在住邦人にも広報するようにしたいと思いますし、続いて英語バージョンも企画したいと思います。


質問4MRIやPETでなく血液検査でのADやMCI,SCI検出につてはどうでしょう。

新井 ノーベル賞受賞者の田中氏達により島津製作所が血液検査でアルツハイマー病を診断する最新システムを開発しましたが、それでも精度は90%程度です。MCIさらにはSCDではさらに低下します。ということは偽陽性や偽陰性が一定の割合で出てくるので、臨床上はいろいろな問題が生じることになります。


質問5今、地元の地域包括支援センターで認知症カフェのボランティアをしています。
内容はお年寄りの話し相手をしているのですが、こういった施設でも導入可能でしょうか?

新井 導入可能と思います。「健脳カフェ」ではMCIやSCDを中心に二次予防のための体操、栄養指導、社会交流、対人ゲームなどを導入しています。全国に広がっている「認知症カフェ」の対象は発症された方が中心で三次予防が有効です。二次と三次予防はほぼ同じ内容でいいので、ぜひ導入されてください。


質問6公認心理師について、もう少し詳しく知りたいのですが、例えばどうしたら資格が取れるのか?何学部で学べばよいのか?

松田 心理学の国家資格です。もっとも基本的なルートは、指定されたカリキュラムのある大学および大学院で所定の単位を収め、国家試験の受験資格を受ける、というものです。詳しいことは、所管の文部科学省と厚生労働省の指定試験機関・指定登録機関である日本心理研修センターにお問い合わせください。
http://shinri-kenshu.jp


質問7今回の講座で資料などはいただけるのでしょうか?また、参考図書などはありますか?

新井 今後の課題としてダウンロードできるようなことを検討したいと思います。小生の講演は「脳寿命を延ばす」(文春新書、2021)が参考になると思います。


質問8物忘れがあり、MCIのレベルかと思いますが、本人は認めず病院にいきたがりません、どのように言えば診断に行くようになるでしょうか?

新井 まず大事なことは騙して病院に連れて行くことは、その後の検査・治療に影響しますので避けてください。①情に訴える:いつまでも元気でいてほしい、みんなで心配している、②かかりつけ医からの導入、③配偶者受診に付き添う形で同時受診、などでしょうか(詳しくは、春から開始予定のライブ相談でまた相談されてください)。


質問9ありがとうございました


質問10脳ドックは何歳から受けるのがおすすめですか?その後の頻度は?

新井 MRI中心の「脳ドック」は脳動脈瘤の発見に有効で、アミロイドPET中心の「健脳ドック」は20年以上前からアルツハイマー病の発見に有効です。なので、「脳ドック」は何歳でも、「健脳ドック」は50歳頃からがお勧めです。異常がなければ3年に一度位で良いのではと思います。


質問11大変に興味深く拝聴しました 一点お聞きします 認知症発症に年齢の差はあるのでしょうか いくつになっても健康であれば認知症の心配はないのでしょうか

新井 年齢の差はあります。各年代人口で認知症患者さんの占める割合は以下の通りです。65-69歳では約2.2%、70-74歳4.9%、75-79歳10.9%、80-84歳24.2%、85歳以上55.5%


質問12認知症進行予防にと、数独や塗り絵や歌唱が良いとかの色々な話がありますが、本人の症状によって効果が違うように思います どのように選択すれば良いでしょうか

新井 講演でも話しましたが、繰り返しの作業では脳活性化はあまり期待できません。そして大事なことは、子供の教育ではないので嫌々ながらやる必要はなく、逆のストレスになり不機嫌になります。要は、本人が好きで楽しめることをを選べば良いと思います。


質問13何度も同じ話を繰り返す人にそれを指摘するのはよくないでしょうか。

松田 よくないとは一概にいえません。ケースバイケースです。相手の方には繰り返しているという自覚が全くない場合は、こちらが指摘することで不安になったり、混乱されたりする場合など、指摘することがご本人にとって望ましくない結果を招くと考えられる場合には、あえて指摘しなくてもいいかもです。


質問14オンライン健脳カフェの内容と費用の概要を知りたい

新井 ご興味を持って頂きありがとうございます。現在検討中ですが、最初のプログラムはライブで、体操系1時間、質問・相談時間1時間を毎週金曜日午前10:30-12:30で予定してます。その後には多くのオンデマンド式で多くの動画を健脳チャンネルに載せて行く予定です。費用についても未定ですが、法人・団体契約と個人契約にして、後者の方はなるべく格安で皆さんにご参加頂きたいと考えています。


質問15大阪から試聴しています 松田先生の話の中で「貼り紙だらけになるのも…」とありましたが、88歳の母の物忘れが激しく気がつけば部屋中貼り紙だらけになってしまっています 良くないのでしょうか?

松田 ご本人にとって、貼り紙が適切な手がかりとして機能しているなら問題はありませんが、情報過多となってご本人にとって混乱を生じている場合は、本当に大事な情報だけに絞ることも必要です。繰り返しになりますが、今の状態がご本人にとって安心な環境になっているのでしたら、今のままで構いません。


質問16健脳カフェを地域の介護予報総合事業に組み入れることは可能でしょうか。 ぜひ、行政を入れた実践を試行していただきたい。

新井 ありがとうございます。実は私供も行政の事業との協働を考えています。ご指摘のように、それにより地域ぐるみでの予防活動になりますからね。で、現時点でもいくつかの自治体さんとは連携をスタートしています。もし宜しければ、「生涯健康社会推進機構」もしくは私のクリニック(メール: info@alz.tokyo)までご連絡下さい。


質問17検査者の力量が大事と言われていましたが、受診する側にはとてもありがたいです。

松田 ありがとうございます。公認心理師に対するみなさまのご期待に応えられるよう、これからも頑張ります。


質問18セラピストの方の力量が大事といわれていましたが、認知外来だけではなくて普通の初診外来にもいてくだされば、もっと医師に伝えやすくなると思いますがいかがでしょうか?

松田 ご期待、ありがとうございます。公認心理師の職域が広がるようにこれからも頑張りたいと思います。


質問19夕暮れ症候群ですが、今3か月の孫が夕方になるとぐずって泣くのですが認知症になると同じような心理が起きるのでしょうか?

新井 夕暮れ症候群の厳密な機序は解明されていませんが、心理的には薄暗くなり不安になったり帰宅願望が強くなることが、生物学的に精神疲労や概日リズムの影響で若干の認知機能の一時的低下も加わり、生じてくるものと理解しています。


質問20老化と認知症の境はどこにあり、それぞれに心理的にどう対処すればいいでしょうか。

新井 両者の境は、日常生活に支障をきたすかどうか、つまり程度の違いです。心理的には、まずはきちんと医学的に調べてもらった上で、担当医とよく相談することが重要と思います。


質問21お世話様になります。物忘れは、前哨戦ですか?時々なんでそのような行動をとったのか時思い出せ事があります。物を探しに行っても、その目的が思い出せず、何もしないで戻ることがあります。対処方法等はありますか?よろしくお願いいたします。

松田 物忘れは正常加齢でも起こるため、必ずしも前哨戦とはいえません。でもご心配ならばまずはかかりつけの先生にご相談されることをお勧めします。対処方法ですが、そのようなことが起こったときの対処方法としては、直前までご自身がなさって行動を、実際に元の場所に戻ってみて、思い出して見る、というのがよいと思います。物覚えが悪くなったり、とっさに思い出すのに苦労されるようになるのは、正常な加齢現象でも起こりますが、ご心配な場合は、かかりつけのお医者さんにご相談してみるのもよいかもしれません。


質問22松田先生へ 認知症にもアルツハイマー病のほかに、レビー小体や前頭側頭型認知症など、色々なタイプがあると聞きました。疾患のタイプによる心理検査の使い分けなどありましたら、ご教示いただければと思います。

松田 レビー小体型認知症の症状のアセスメントでは、視覚認知系の検査を含む検査を用いることがあります。前頭側頭型認知症のアセスメントでは、前頭葉機能と呼ばれる機能を含む心理検査を選択することがあります。


質問23知人の名前が出てこないが顔浮かびます。これは認知の始まりですか?

新井 私も同じです。昔から名前を覚えるのは苦手です。ポイントは、それがどんどんひどくなっているとか「変化」があれば、要注意です。


質問24家族がアルコール多量摂取による認知機能低下ではと思っています。本人の認識はあるかは分かりませんが、集中力や話を周りの状況から推察する事が劣ってきているように感じます。 なかなか受診に至らずにいますが、もし、受診をするとしたら、認知症外来の受診が良いのか、アルコール依存の専門外来を受診した方が良いか教えて下さい。

新井 同様の悩みを持つご家族は多いです。まず、このような場合はご本人が受診を受け入れるかどうかが最大の問題になるので、診療科はご本人の希望で決めたらと思います。受診ルートに乗れば、いずれに診療科でも認知機能を調べてもらえると思いますので。


質問25ここのところテレビに出てくるタレントの名前がすぐに出てこなかったり、全く思い出せなかったりすることが多くなってきました。 現在66歳。2~3年前からのことです。SCDの始まり、いやMCIに入りつつあるのでしょうか?

新井 私も同じです。昔から名前を覚えるのは苦手です。ポイントは、それがどんどんひどくなっているとか「変化」があれば、要注意です。


質問26MCIは以前から聞いたことがありましたが、SCDという概念を初めて知りました。単なる「物忘れが多い状態」との違いをもう一度教えてください。

新井 SCDでは自分だけが忘れっぽさに気付き、認知機能検査では正常。MCIでは認知機能検査で正常範囲ではあるがやや低下、日常生活は普通に送れるが物忘れがあるのではと周囲に気付く人も現れる。


質問27認知症予防に効果のある食事・・・という記事を、本や雑誌でよく見ますが、そういったものの効果とその根拠について、先生のお考えを教えていただけますか?

新井 アルツハイマー病を始めとする神経変性疾患による認知症は複雑な病態なので、一つの食べ物とか栄養素で症状改善は期待できません。バランスの良い食事、生活習慣病予防に良い料理がお勧めです。


質問28コロナ禍で、この2年間ほど、直接、人と会う機会が極端に減りました。
この「人と会って話す」ことは認知機能の維持によい効果を及ぼすと思いますが、それはオンラインでの会話でも、電話で顔が見えない状態での会話でも同じような効果が見込めるのでしょうか? そういった行為は、やはり直接人と会うことに比べると、とても刺激が少ないように感じるため、質問させていただきました。

松田 厳密なエビデンスについては詳しく存じあげないので印象になってしまいますが、おっしゃる通りかもしれませんね、とはいえ、直接でも、間接でも、他者との繋がりやコミュニュケーションを維持するという意味ではどちらも重要な活動でので、何もしないよりは、今できる方法で続けることが重要であろうと思います。


質問29睡眠時間が6時間半から7時間とありましたが、私は昔から8時間睡眠をとっています。多すぎるのはまずいでしょうか?

新井 あくまでも疫学的調査研究からの推奨ですので、全員に当てはまるとは言えません。特に昔からの習慣であれば帰る必要はないと思います。あとは、重要なのは睡眠の質なので、起床時の気分などでご判断されてはいかがでしょうか。


質問30アミロイドPET検査はどのような病院で受診できますか?

新井 北海道から九州まで全国で10ヶ所以上検査可能な病院があります。ただし、認知症専門医が主体となって検査を行い、その後の長期的予防・対策に重点をおいているところは当方だけです。


質問31前頭葉機能低下予防として、できるだけ指先を使うことが良いと聞いたことがあります。
その方法として、そろばん教室、料理教室、風呂で指のマッサージ等はある程度の予防になりますか?

新井 どんなことでもやらないよりは良いと思いますが、重要なことはご本人が楽しみながら意欲的にやれば効果的だと思います。逆に言えば、指のマッサージをすれば前頭葉機能低下の予防ができる、というような単純なことでもないと思います。


質問32アミドロイドPETの検査料金は??

新井 それぞれの病院のHPで掲載されていると思いますが、30万円代、40万円代のようです。当方では上記のように検査だけでなく、その後の長期的予防・対策も検討し、料金は55万円です。


質問33良い食品は??

新井 アルツハイマー病を始めとする神経変性疾患による認知症は複雑な病態なので、一つの食べ物とか栄養素で症状改善は期待できません。バランスの良い食事、生活習慣病予防に良い料理がお勧めです。


質問34認知症の特効薬は出来ますか

新井 将来的には進行を止めるような薬剤が誕生すると思います。今はその一歩手前で足踏み状態で、夜明け前と考えます。課題は、「効果と副作用のバランス」という医学的問題と「費用対効果」という経済的問題が残っています。


質問35健脳の経営はボランティア活動?それともペイできるもの?
失礼な質問ですが今の状況はいかがでしょうか。

新井 失礼というよりもご心配頂いたものと感謝します。東京都新宿区で90坪の広さで実施しているので、今のところ「大赤字」であることは事実です。でも、ボランティア活動ではなく、私のライフワークです。「健脳ドック」と「健脳カフェ」で二次予防を可能にすること。なので、産学協同で多くの組織を協働すること、そしてインターネットで広く予防活動を広げることで、大赤字だけはなるべく減らしたいと考えているところです。


質問36認知症、ボケとは、具体的にどのような状態になった時でしょうか?

新井 単なる老化と違って、認知症では日常生活に支障をきたし、仕事や家事に影響が出てきます。


質問37認知症機能低下の兆しは?

松田 原因にもよると思いますが、認知症の主たる原因であるアルツハイマー病の兆しは、物覚えが悪くなること、お料理や引越しの段取りなど、実行機能を大いに必要とする活動で、今までよりも努力が必要になること、などが考えられます。


質問38今日聞いたお話はアルツハイマー型認知症以外でも有効なのでしょうか。

新井 有効であると思います。


質問39友達がいないのですが、健脳カフェは、一人で行っても楽しめるものなのでしょうか。年齢制限などありますか。

新井 年齢制限はありません。ご夫婦やお友達と一緒に来訪される方がいますが、3割位は一人でのご参加です。みなさん、楽しんでおられます。


質問40英会話は認知症予防の脳トレとして良いと伺っているのですが、今日のお話には無かったようです。新しい言語を学んでシナプスを増やすことは最強と思いますが、如何でしょうか。

新井 今日の講演では、大規模疫学研究から得たエビデンスに基づいた内容でした。つまり、英会話や言語関係の要因の効果が認められていませんが、社会参加や交流の有効性は確認されています。ポイントはご本人が楽しめるかどうかで効果は変わってくるように思います。


質問41ご飯を何を食べたかを忘れたことは認知症ではなく、食べたことを忘れることが認知症と聞いています。このような対比した事例集があったら教えて下さい。

松田  事例主ではありませんが、「老化」と「認知症」の物忘れの仕組みの違いがわかりやすく解説されている本がございます。
齋藤正彦(監修)『徴候と対応がイラストでよくわかる家族の認知症に気づいて支える本』小学館 2013年


質問42料理を作ることは、脳の並行処理機能を養うことで有効と思っていましたが、最新の研究では、脳疲労の原因になるので否定されている様です。最近料理を強化しようと思っているので、教えて下さい。

新井 これまでに何度も記載しましたが、要は適度な脳刺激になるのか、逆に脳のストレスになるのかは、やり方次第、家族の要求どの違い、楽しんでやれるかどうか、だと思ってます。研究自体はその辺りの多因子を解析しているわけではないので、単純な結果になりやすい。研究成果をどのように理解し、応用するかがとても重要になってきます。


質問43オンラインの場合、参加人数の制限はありますか。

新井 ありがとうございます。参加人数の制限はないようなシステムにするつもりです。


質問44健脳カフェの活用には、その参加頻度にもよりますが、結構なコストがかかりそうです。
こちらの費用は保険対応ではないと思いますが、確定申告での医療費控除の対象にはなりますか? 何らかの費用助成制度が有りますか? 
以上、用件のみで失礼いたします。

新井 参加費用は、現在検討中で未定ですが、個人参加はなるべく負担が少なくなるよう検討しています。なお、予防活動や人間ドックなど未病の段階にかかる費用は、日本では、確かに医療費控除の対象外と思います。今考えているのは、個人契約だけでなく、行政や企業・法人など団体でも契約がより広く活動できるのではと企画しています。


質問45予防の為には、「対人ゲーム」がよいということですが、 私は囲碁も将棋もトランプも麻雀もしません。その種のゲームが苦手です。 何かおすすめがありますか?

松田 絵を描く、日記をつける、お料理を作るなど、ご自身が楽しく取り組める活動でも良いと思います。できれば、誰かのためにやって見る、誰かと一緒にやってみる、というように、他者との交流を伴うとさらに良いと思います。


質問46「あれっ。今何しようとしてた、私?」が増えてきて、ショックです。
冷蔵庫を開けて「何だったっけ?」など。どのように工夫できますか。改善することはできますか。

松田 実際に元の場所に戻って、自分が何をしようとしていたのかを振り返ってみると良いかもしれません。


質問47義母の事なのですが、アルツハイマーと診断されています。
本人は認めずデイケアも拒否しています
どうしたら良いのでしょうか?

新井 ご家族の皆さんからよく受ける質問で、皆さんお悩みですね。かかりつけ医の先生から勧めてもらう、DS導入の前にヘルパー導入で慣れてもらう、先に通っている友人に誘ってもらう、ボランティア活動としてDSを助けに行く形式にする、などなどいろいろ工夫してみてください。


質問48私は、数年前に病気で大量出血をしまして、重度の貧血になった影響で、認知機能が低下してしまいました。現在、専門医の元で治療を受けております。
認知症ではないですので恐縮ですが、現在は、言語や記憶を瞬時に思い出しにくいという症状で一番悩んでおります。
改善させるために何か行うと良い対処方法がございましたら、教えて頂けませんでしょうか。よろしくお願いいたします。

新井 この場合は、認知症ではなく、高次脳機能障害に当たると思います。脳がどのような状態になっているのか分かりませんので迂闊なことは言えませんし、幸いなことに専門医に通院されているとのことですので、リハビリの方法について遠慮なくお聞きになっていただけたらと存じます。


質問49記憶能力の落ちている人とどの様に接すれば良いか

松田 その方とお話している間は、まずは遮らず、最後までしっかりと聞くようにしましょう。


質問5085歳の母ですが、同じことを何度も聞いたりしますが、その時は同じことを繰り返していることを本人に言った方がいいのか、受け流して、こちらも同じことを繰り返した方がいいのでしょうか?

松田 日々のご対応、本当に悩ましいと推察致します。お母様にとって、指摘されるということはどのような体験になるかを考え、対応を判断するとよいでしょう。例えば、相手の方には繰り返しているという自覚が全くない場合は、こちらが指摘することで不安になったり、混乱されたりする場合があります。指摘するがしないかよりも、指摘することでご本人がどんなお気持ちになるかを想像し、するかしないかを判断するとよいと思います。ですので、おっしゃるように、受け流す方がご本人に混乱が生じないならば、受け流すのがよいでしょうし、一方、指摘してもらった方がご本人が「助かった」と思える状態ならば、ご指摘されてもよいと思います。親子の場合、子供から指摘されると、本当はありがたいと思っても、素直に感謝の気持ちが出せない方もおられるようなので、その点はお母様にはどちらがよいかをお考え頂いてご対応ください。


質問51毎日、詐欺事件が発生しています。
子供や孫の声を識別できなくなることや、詐欺かどうか判断できなくなるのはなぜか。
カードや通帳を騙し取られてしまうのを、予防する方法は?

松田 詐欺の手口は巧妙になっています。こちらが気をつけていても、犯罪集団は情報操作や心的操作を巧みに行って、相手を騙すようです。警察から詐欺被害対策の電話を貸し出ししている場所もあるようです。最寄りの警察署にお訪ねいただくのも良いかもしれません。ご参考までに、こちらは香川県警のホームページです。 
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/15572/furigeki.pdf
なお、成年後見制度を利用すると、ご本人の財産を公的に保護することができます。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html


質問52 対人ゲームは私も苦手ですが、バードウォッチングで、探鳥会だと、みんなで確認する、珍鳥を見た喜びを分かち合う、知識を教えあう、ということがあります。
これも対人ゲームに近いような気がしますが、有効性はどうでしょう。

新井 今日の講演では、大規模疫学研究から得たエビデンスに基づいた内容でした。つまり、英会話や言語関係の要因の効果が認められていませんが、社会参加や交流の有効性は確認されています。ポイントはご本人が楽しめるかどうかで効果は変わってくるように思います。


質問53 日本音楽療法学会認定音楽療法士です。認知症に関しては20年以上寄り添い、数々の学会にも参加して学んできましたが、本日のお二人の先生方のお話は、大変理解しやすかったです。
また話声の声色、テンポ、間合い、聞き取りやすく参考になりました。さらにおやさしい愛情を感じる講義でした。
音楽に関しては、私たちはセラピストが、個人個人の歴史に寄り添いながら、深く進めていますので、機械での対応とはずいぶん異なります。
ただ発症前の多数のクライアントに寄り添う時には、オンラインでも可能となるこようなスタイルになってゆくのか…と

新井 いろいろ教えていただきありがとうございます。確かに、「認知症カフェ」と「健脳カフェ」の違いと同じように、発症前の二次予防を多数の方を対象に実施するにはオンラインでの対応が必要かもしれませんね。


質問54 今日は有難うございました夫の相談です
77歳直近の記憶がなく何度も聞いたり確認をします 病院にもいきましたが半年ごに又来てくださいだけで早期発見といわれていますがどのようにすれば良いのか心配しています遅らせるための方法分からないなりにやっていますがどのようにすれば良いのでしょうか

新井 半年後の診察ということは、早期発見だけでなく、MCIかもしれませんね。どうすれば良いのでしょうか?とのご質問ですが、今日ご紹介したような「健脳カフェ」のプログラムは、疫学研究から推奨されている予防活動になりますので、ぜひ参考にされてください。


質問55 認知症予防の食事メニューの例を知りたいです。

新井 今日の公開講座でも栄養教室の案内がありました。今後、オンラインの健脳カフェでも引き続き栄養教室の動画も紹介しますので、ご期待ください。


2022年3月