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認知症110番創設30年に思う~相談員コラム

 毎日新聞と認知症予防財団による無料の電話相談「認知症110番」が今年7月、創設30年を迎えました。1992年の開設以来3万件を超す相談が寄せられ、相談員たちは各方面からのお悩みにお応えしてきました。相談員として長い歴史を知る方、新たに相談員として加わった方たちに、電話相談に取り組む思いを記してもらいました。

寄り添ってねぎらう

井上和子相談員

 以前は、認知症専門病院で勤務していて、外来で認知症相談を請け負っていました。

 こちらで相談員を始めて間もないのですが、全国から相談があり、相談内容、電話をかけてきて下さった方の年齢もさまざまです。

 認知症予防財団の電話相談では継続して悩みをお話ししていただいている方もいますが、最近は新規の相談をお聞きすることが増えてきました。

 顔が見えない関係だからこそ本音が言いやすい利点を生かせるように、相談員として思いを聞かせて頂いています。

 まずは不安や嫌だったこと、知り合いにはなかなか言えない気持ちを吐き出してもらって気持ちに寄り添い、労いを伝え、十分に思いを吐き出してもらった段階で今後どうしていくか一緒に考えていけるように心掛けています。

 月曜日、木曜日の10時から15時までの電話相談ですが、一人で抱え込まず、他の人に話すことで何かしらいいきっかけとなりますように。

 「認知症110番」をご利用いただければ幸いです。

介護の伴走者として

中田京子相談員

 電話相談員を長年勤めさせて頂いています。早25年となり、たくさんの相談を受けてまいりました。途中で介護保険制度が始まり、少しずつ介護サービスが整備されて、相談先も増え、認知症の方々を支える状況は整ってきました。その流れの中でも、当相談へのニーズは増え続けています。一貫している相談内容は、認知症への不安や介護ストレス、家族間の葛藤です。

 電話相談の大きな特徴は匿名性です。「認知症110番」では住所や名前も言う必要はありません(もちろん、名前を名乗って下さる人も多くいらっしゃいます)。だから何でも言える、本音を語ることができるのです。もしや認知症ではないか?と不安に思った時に気軽に相談できます。

 また、相談で多いのが介護ストレスです。認知症のご家族を介護する日々には、ストレスや葛藤がたくさんあります。「こんなことを言っていいだろうか」「こんなことは誰にも言えない」とためらいがちですが、その気持ちを抱えて介護するのは辛すぎるのです。

 その辛いお気持ちを受け止めるのが「認知症110番」です。当相談には、繰り返し相談して下さる方が大勢いらっしゃいます。多くの方が当相談で介護ストレスを発散させ、長くゴールの見えない介護を続けています。私たちは介護の伴走者の役割を担っていると思います。これが当相談の価値の一つと思います。ぜひ「認知症110番」への応援をお願いいたします。

みんなをつなぐ糸

長島喜一相談員

 ツルルー ツルルー
 「はい こちら 認知症110番です」
 すべては ここから始まる
 「あの…… 物忘れが目立つようになった母のこと… 相談できますか?」
 不安そうな声
 疲れ切った声
 おどおどした声
 やりきれない声
 様々なトーンの声が伝わってくる
 そのトーンを感じながら 0120・65・4874(ろうご・しんぱいなし)につながった そのことを大事にする
 「はい 大丈夫ですよ お話してみてくれますか?」
 その声に後押しされたかのように
 すぐに話し始める方
 まだためらいがある方
 などなどさまざまだ
 「認知症110番」が始まって30年 電話でつながった数3万件超
 すべてに人生ドラマがある
 相談したいことを 整理して話す方
 混乱したまま話す方
 寝ている母が起きださないか気にしながら話す方
 仕事の休憩中に急いで話す方
 相談員は 神経を耳から脳に集中する
 声にも表情がある
 その表情を読み取ろうとする
 「父が 同じことを何度も何度も聞くので 相手するのがもう疲れます」
 「母は しっかり者で きれい好きで 社交的だったのに 家でぼんやりしています」
 「物忘れがひどいので受診を勧めても『病気じゃない!』と、怒りだします」
 「『私の財布 あなたが盗ったんでしょ 返して!!』と怒鳴られます どうして?」
 「母は 一人暮らしでヘルパーにケアしてもらっています ヘルパーを家に入れてくれないことがあります どうしたら」
 「父が一人で家を出て行き帰ってきません 警察のお世話にもなった どうしたら……」
 「夫の会社から 最近同じ失敗を繰り返す 認知症の可能性もあると言われた」
 などなど無数だ
 相談員は 一呼吸おく
 訴えを整理しながら
 辛さを受け止める
 アドバイスを探しながら 二人でキャッチボールする
 その中から 何かのヒントがみえる
 相談者と相談員が共有する
 「勇気をもって 思い切って電話してよかったわ 少し心の中が軽くなりました」
 相談員もホッとする
 もう一つ大事にしていることがある それは 困りごとだけではなく
 良さ
 優しさ
 楽しかったこと
 それを引き出し発見する それを見つけ出せると 相談者のトーンに優しさが加わる 相談員の表情も明るくなる
 あなたの相談は 次の相談の糧になる
 「認知症110番」は みんなをつなぐ糸になる
 認知症という糸で結ばれたい
 あなたからの電話を待っている その第一歩が重い扉を開くきっかけになれば 嬉しい

孤独に寄りかかる場

松野則子相談員

 匿名で7年、実名を名乗られてから数百回の相談をお寄せくださった方のお言葉です。

 「嫁のせいで姑が認知症になったと親戚から責められ続けました。その辛い気持ちを話しただけで、前を向けました」「いつも月木にある!いつも聴いてくださる!これは、本当にありがたいです」

 理性的な言動が難しくなるとされる、前頭葉側頭葉型認知症の妻の介護をしている夫さんからはこう言っていただきました。

 「訳のわからないことばかりする。どこに聞いても病気だからという答ばかり。おたくに聞いて初めて〝認知症の人の考え〝がわかった。スッキリした。助言通り対応してみるよ」

 最後は、お母様が認知症と診断されたばかりの娘さんのお言葉です。

 「気持ちを聴いてくださるだけでなく、助かる制度も教えてくださるのですね。介護全体のサポートに感謝します」

 認知症の介護が不安な方、辛い方、どうぞ私たちを頼ってください。

 認知症の方への介護は非常に孤独です。

 身近な方や友人にも言葉にできず、弱音をはけない時が多々あります。でも声をあげて助けが欲しい時が、必ずあります。その時に、寄りかかる場所がある。同じ曜日にやっている。専門家がいる。これは介護者にとって心強いと思います。相談することが、生活の一部だとおっしゃる方もいらっしゃいます。これからも、私たちは気を引き締めて研鑽に努めていきたいと思います。

2022年8月