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介護の悩み お寺で 認め、許し合えば真の安らぎが

 奇数月ごとに介護に悩む人たちの集うお寺が東京都葛飾区の亀有にある。毎回15人前後の男女が住職を囲み、自身の悩みや経験を分かち合う。参加者たちは「つらいのは自分だけではない」と知り、不安や孤独な気持ちを和らげている。最初は自分の苦労を聞いてほしいと出席していた人も、やがて「他の人に安心を与えることで人の役に立っている」ことに気づき、真の心の安らぎを得ていく。

 介護を1人で抱え込み、孤立する人は多い。ため込んできた思いを吐き出す場もない。地域でこうした実情に触れてきた浄土宗「香念寺」の住職、下村達郎さん(40)は2016年11月からお寺を「介護者の心のやすらぎカフェ」として無料で開放している。

 昨年11月15日午後。お寺には都内だけでなく千葉、埼玉などから8人が訪れた。仏様が見守るお香漂う独特の空間が、身内の赤裸々なプライバシーでも話しやすい雰囲気を生む。参加者に近所の人は少なく、1時間程度の距離に住まう人が多いという。

 下村住職の進行で、初参加の50代の女性が語り始めた。夫の兄弟が我関せずを貫くなか、1人で義母の介護を背負ってきた。行政や介護福祉施設の手続きの際に「実子の方を連れてきて」と言われたこともあり、自身の「中途半端」な立場に落胆したという。

 義母は義母で「家に帰りたい」と口にする。女性は「冷たいことをしてしまったのでは」と漏らし、いら立ちと負い目、後悔に苦しんでいることを切々と訴えた。

 カフェにはみとりを済ませた人も参加する。心の空白を埋められずにいる人が少なくないからだ。介護を終えれば福祉や行政の関係者も関わらなくなり、介護をしていた人は行き場を失う。

 9月には2年前に父を亡くした50代の男性が参加した。「トイレに付き添って」との父の頼みに一度だけ耳を貸さなかったとき、父は1人で用を足そうとして転倒し、その後その時のけがが元で亡くなった。長く男性は「自分が殺した」という思いにさいなまれ、カフェでもそうした心情を吐露してきた。それがこの日は「後悔は消えないけれど、悲しんでいてもいいんだと思えるようになった。皆さんのおかげでこんな私でも変わることができました」と口にした。

 この男性のように、参加者に支えられていた人が通ううちに勇気づける側に回る例は多いという。浄土宗には自らの至らなさを見つめる「愚者の自覚」という言葉があるそうだ。下村住職は「背伸びをせず、至らなさを互いに認め許し合える関係の中でより安心を得られることになれば」と話す。

 新型コロナウイルスの感染拡大時にはオンラインカフェを始め、今もお寺でのカフェとは別に、偶数月に 開いている。浄土宗の推進もあり、寺院での対面形式のカフェは全国約20カ所に広がっている。

 これまでは「傾聴」中心だった。今年からは次のステップとして「発信」に力を入れ、直接参加できない人にも同じつらい思いをしている人が大勢いることを伝えたい。そう考える下村住職は1月、カフェの活動を紹介する「介護者の心のやすらぎレター」を発刊する。社会福祉協議会などを通じ、多くの人に届ける予定だ。

 カフェに関するお問い合わせは へ。

2022年12月