トピックス

団地再生 地域の力で/空き家をつくらない/東大が共同研究

辻哲夫氏

 住民の高齢化によって郊外団地に空き家が増え、地域もろとも劣化する事態が懸念されている。こうした問題に対応するため、東京大学高齢社会総合研究機構は、住宅メーカーなど3社と郊外団地の再生に関する共同研究に乗り出した。住まい手が認知症になる前に、持ち家を新たな価値を生む建物に生まれ変わらせる準備を進めておき、空き家化するのを防ぐことが柱だ。

 同機構の辻哲夫客員研究員(元厚生労働省事務次官)によると、退職者の資産の約6割を住宅が占める。しかし認知症になれば子どもでも勝手には処分できない。認知症の人は2025年に700万人に達するとみられているのに、認知症の人などに代わって契約や手続きをする成年後見制度は利用者が23万人に過ぎず、また認知症になる前には使えない。

 開発当初はにぎやかだった団地も、時を経れば子どもたちは出て行き、高齢者ばかりが残る。やがて本人は老いて高齢者施設に。子どもすら顧みない持ち家は朽ち、空き家だらけとなった一帯は地価も下がって資産価値を失う――。辻氏は急激な人口減も伴ってこうした問題があと20年以内に大都市圏の郊外団地で頻発する、と指摘する。

 そこで発案したのが、認知症になる前に持ち家をリフォームして飲食店に貸したり、他の人に売ったりできる見通しを立てておくことだった。地域内にはシェアハウスやグループホームなどを作り、認知症になればそこへ移り住む。あらかじめ団地の住民とその団地に住みたい多世代のニーズを探りながら、放置すれば朽ち果てる団地を再生する。持ち家が新たな価値を生み出し、本人にも子どもにも、そして地域社会にも好都合。誰もが住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らせるまちづくりにつながるという。

 研究の舞台の一つは大和ハウスが横浜市栄区に造成した「上郷ネオポリス」。1973年から入居が始まった郊外型の住宅団地だが、坂が多く、最寄り駅も遠い。高齢化が進んで商店街は寂れ、空き家も増えて活気を失っていた。

 再生に着手した同社は地域イベントを手伝うなどして住民の機運を盛り上げながら、19年にコンビニを併設したコミュニティー施設を誘致した。コンビニで働く地元の高齢住民が高齢の買い物客を見守り、支援する。高齢の地域住民の動きが団地再生の鍵といい、高齢者らの移動サポートなどさまざまな生活支援の実証事業も産官学の連携で試みている。

 研究を進めるうち、高齢者の不動産や金融資産について、認知症になることを想定して事前に一括相談できる窓口が乏しいことが分かってきた。辻氏は認知症になる前に自分の家や財産の扱いを信頼して相談できる相手が必要と考えており、団地再生の一連の手順を標準化したうえで民間による認証事業に取り入れ、ワンストップで対応できる相談機関にお墨付きを与えることも共同研究のテーマとしている。辻氏は「今後はコミュニティーなき地域社会は滅亡します。そしてポイントは空き家を作らないこと。あと1年くらいで研究にメドをつけたい」と話している。

2023年4月