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多彩でユニーク「幻視」と仲良く 三橋さん

三橋昭さん

 レビー小体型認知症の症状である自身の幻視を著書にしたり,個展を開いたりしている三橋昭さん(74)が5月、認知症予防財団の電話相談員向けに自らの体験を語った。幻視を受け入れ、「今朝はどんな絵が出てくるのか楽しみにしている」と言う三橋さん。マイナスとされがちなことも前向きに捉え、積極的に生きる姿勢に相談員たちも強く共感していた。

 三橋さんが症状に初めて気付いたのは、東京都の大田区立蒲田図書館長だった2018年の11月末。朝、目が覚め、ベッド脇に近づいてきた飼い猫のたまをなでてやろうとしたら、自分の手がたまの胴体をすり抜けた。本物でないことに気づき、愕然となった。

 妻にも言えず、なかったことにしようと思おうとした。それでも翌月に今度は土偶が天井に映り、19年3月に大学病院で検査を受けたところレビー型認知症と診断された。

 仕事でVR(仮想現実)映像による幻視の疑似体験をしていたため、覚悟はできていた。とはいえ、ネットを検索するとネガティブな情報ばかり出てくる。「何も分からなくなってしまうのか」と不安を覚え、記録を残した方がいいと、見たままを描き始めた。

 診断の翌月、図書館のスタッフや長年携わってきた映画祭の実行委員会の仲間に思い切って「認知症になった」と告げた。ところが、皆「そうなの」といった反応で、すぐにいつも通り用事を頼んできた。普通に接してくれたことを三橋さんは「とてもありがたかった」と振り返る。

 スケッチは当初、チラシの裏などに描き、パソコンに取り入れて原画は捨てていた。それを妻が「せっかく書いたのだから」とゴミ箱から拾ってくれ、初期の原画も残った。色彩豊かなカエルや魚、天井から生えるバラ、頭部がスニーカーの骸骨……。幻視が出るのは数秒。カラフルな時もあればモノクロの時もあり原画は1000枚以上になっている。当初三橋さん以上に落ち込んでいた妻も、絵が見えることを一緒に楽しんでくれるようになった。

 通常、幻視は幽霊など怖いものが多いといい、多彩でユニークな三橋さんのような例は主治医も知らなかった。「幻視が常に離れない存在なら、もう仲良くした方がいいと思えるようになった。異常な世界という考え方はしない方がいい」と三橋さんは話す。

 友人たちからの勧めもあり、原画展を開いたところ評判を呼んで各地で開催されるようになり、幻視を見るという人たちと知り合って自身の世界が広がった。20年には「麒麟模様の馬を見た 目覚めは瞬間の幻視から」を出版し、幻視をYouTubeでも発信している。

 認知症の「初心者」だったころ、周りが自然に受け止め、公表できる雰囲気を作ってくれたことが大きかった。三橋さんは認知症の人にそうした場を提供できるシステムを作れないかと模索している。子どもに認知症が怖いものではないと知ってもらう活動もしていきたいという。

 認知症になると、家族は「なぜこんなことができなくなったのか」と嘆きがちだ。が、三橋さんは「自由が増えた」と捉えるようになった。「できないならやらなくていい。そのことから自由になれる。できないことが増えていくにつれ、どんどん自由が増えていると思えば、家族の気持ちの負担も減るのでは。そんなことを伝えていければ、と思っています」

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トランプで遊ぶビーグル犬とウサギ
ハンガーにぶら下がる小人

2023年6月