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音で認知症を「ながら予防」 テレビ、ラジオ音を「ガンマ波サウンド」に変調

 塩野義製薬と筑波大発のベンチャー企業「ピクシーダストテクノロジーズ」(PxDT)は、テレビやラジオなどの音源を認知機能の改善が見込める音に変調する技術を共同開発し、その技術を用いた変調音「ガンマ波サウンド」を作り上げた。両社はNTTドコモなど他の4社と連携し、日常生活で耳にする音によって認知機能の改善や認知症予防をできる「ながら予防」の実現を目指している。

 記憶や推論をしている際に出る脳波の一種に「ガンマ波」がある。認知機能が低下した人の脳内では、ガンマ波の発生が減少していることが明らかになっている。

 米国マサチューセッツ工科大学の研究チームは2019年、マウスに1日1時間、半年にわたって40Hz周期の光と音の刺激を断続的に与えた。すると記憶をつかさどる脳内の海馬にガンマ波が発生し、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβ(Aβ)が減少したり、空間を認知する機能が改善したりすることが分かった。ヒトを対象とした臨床試験でも認知機能低下を抑制する効果が示唆されるデータを得られたといい、日本でも聴覚を刺激することで認知機能の改善を目指す研究は盛んになっている。

 ただ従来の研究で使われていた40Hzパルス音は不快なブザー音で、長時間聞くのが難しい。そこで塩野義製薬とPxDTは「五感刺激による生活に溶け込んだ認知機能ケアの開発」を掲げて共同研究に着手。テレビやラジオの音声を聞きやすい40Hz変調音にできる「ガンマ波変調技術」を開発し、「ガンマ波サウンド」を生み出した。両社はこうした40Hz変調音を聴取してもヒトの脳にガンマ波が発生することを確認しているという。

 両社と連携するNTTドコモ、学研ココファン、SOMPOひまわり生命保険、三井不動産の4社はガンマ波変調技術を活用し、スマホ、高齢者施設やオフィス、自宅などでも「ながら予防」を可能とするサービスの開発に取り組む。

 塩野義製薬のグループ会社で、一般用医薬品の開発・販売などを担うシオノギヘルスケアは研究成果を踏まえ、4月からテレビに接続すれば音声をガンマ波サウンドに変調できるスピーカー「kikippa(ききっぱ)」(税込み4万9500円。毎月1980円の使用料も必要)を発売している。

2023年6月