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歯周病と海馬萎縮との関連性解明 重度なら痛みなくても抜歯を

 東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野の山口哲史講師らの研究グループは、重度の歯周病であれば残している歯の数が多いほど脳の中で短期記憶をつかさどる海馬の萎縮する速度が速い傾向にあることを明らかにした。山口氏は「研究の正しさが検証されれば、少なくとも脳の健康のためには歯周病が重度の場合は痛みがなくとも抜歯した方がよい、ということになる」と話している。

 アルツハイマー型認知症(AD)の人は海馬が早期に萎縮する。ただ、歯の喪失や歯周病などの慢性的な炎症がADのリスクを高めることは指摘されてきたものの、歯の数や歯周病と海馬の萎縮速度の間に明確な関連があるかは確認されていなかった。

 そこで山口氏らは、同大が東北医科薬科大学や帝京大学とともに1986年から岩手県花巻市大迫町で実施している循環器疾患に関するコホート研究(特定の集団を長期に追跡調査するもの)「大迫研究」で撮影した住民の脳のMRI(磁気共鳴画像)データを用い、55歳以上の172人(男性52人、女性120人、平均年齢66・9歳)について調査。4年間で海馬の大きさと認知機能検査の結果がどう変化し、それが残っている歯の数や歯周病の進行度とどう関係しているかを調べた。

 歯の数、歯周病とも単独で海馬の萎縮速度との関係を調べると、特に関連はみられなかった。

 しかし、歯の数と歯周病の進行度を相互に考慮した調査では歯周病の状態によって違いが生じ、症状が軽度の場合は残る歯の数が少ないほど左海馬の萎縮速度は速かった。具体的には、歯周ポケットが浅い(平均2・05ミリ)軽度の歯周病であれば、歯が1本多いほど左海馬の萎縮速度は約0・9歳分遅くなっていた。

 これに対し、歯周ポケットが深い(平均3・71ミリ)重度の歯周病のケースで見ると、歯が1本多いほど左海馬の萎縮速度は約1・3歳分速くなっていた。また認知機能で見ても、軽度の歯周病なら歯の数が少ないほど低下していたのに対し、重度の歯周病の場合は歯が多いほど低下する傾向という逆の結果になっていた。

 研究により、健康な歯は管理してより多く残すことが重要な一方で、重度の歯周病の場合、歯を無理に残すと海馬の萎縮を早めかねないことが分かったという。山口氏は「重い歯周病でも痛みがなければギリギリまで抜歯せず様子見するケースは多い。もっと大規模な研究で今回の結果の正しさが証明されれば、認知症予防の考え方に大きな影響を与える可能性がある」と指摘している。

 研究成果は米国神経学会誌Neurologyのオンライン版に掲載された。

2023年8月