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介護保険負担増の議論再開/2割負担対象者の拡大焦点

 2024年の次期介護保険制度見直しに向け、「宿題」となっていた利用者の負担増に関する議論が7月、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会で再開した。今年末に結論を出すことにしており、サービスを利用した際の自己負担割合(原則1割)について、例外的に2割となっている人の年収下限を下げて2割負担の対象者を広げるか否かが最大の焦点となる。

 制度見直しに関する同部会でのこれまでの議論では、厚生労働省の提案のうち、①2割負担者の拡大②65歳以上の所得が高い人の保険料引き上げ③老健施設などの個室でない大部屋(多床室)の室料全額自己負担化——は意見がまとまらず、昨年末に結論が先送りされた。①と②に関して厚労省は「遅くとも今年夏までに結論を出す」方針だったが、今年6月、さらに年末まで先送りした経緯がある。

 この中で最も関心が高いのは、自己負担2割となる人(単身者の場合、年金収入年280万円以上)の対象範囲を広げる案だ。厚労省は既に試案を同部会に提示している。

 具体的には2割負担になる人の収入基準を、単身者のケースで「年金収入年220万円以上」とし、下限を今の280万円から60万円引き下げている。現在の対象者は「年収上位約20%」に該当するが、これを「上位30%」に広げる。昨年10月に75歳以上の医療費の窓口負担割合(原則1割、高所得者3割)を見直し、新たに「2割負担」の区分を設けたことに歩調を合わせている。

 高所得者を対象とした保険料の引き上げ案は、低所得層の保険料抑制を目的としている。現在は収入に応じて負担を9段階に分けている標準モデルがあるが、最上位の「合計所得320万円以上」(約255万人)の区分を細分化し、上位所得の人の負担を増やすことで下位所得の人の負担を抑える意向だ。

 こうした抑制策によって浮く財源に関しては、使途を巡る「綱引き」が始まっている。

 岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」として年3・5兆円程度の財源を投入するとし、その一部は社会保険料に上乗せして徴収することを検討している。一方で既存の社会保障費を削り、差し引きで保険料アップにつながらないようにするとも表明している。介護保険を医療と並ぶ主要ターゲットとして削減を進め、保険料抑制の材料とすることを見込んでいる。

 しかし、介護の現場は慢性的な人手不足が深刻化しており、その一因は低賃金にある、と指摘されている。介護従事者の賞与を含む平均給与(22年末時点)は月額31万8230円で、全産業平均を4万円以上下回っている。賃上げには介護報酬の増額が必要で、それには利用者の負担増や保険料の引き上げなどが不可欠となる。社会保障審議会の介護保険部会では「捻出できる財源は人材の処遇改善に回すべきだ」といった指摘が出されている。

■利用者の負担増に関し、先送りされていたテーマ
・自己負担を2割に引き上げる対象者の範囲拡大
・65歳以上の所得が高い人の保険料引き上げ
・老健施設などの個室でない大部屋(多床室)の室料全額自己負担化

2023年8月