主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2016年ヨルダンのシリア難民 熱砂のかなたに (3)

連日パン屋で働きながら、サポートスクールで勉強を続ける少年=ヨルダン・ザルカで2016年10月11日、久保玲撮影

連日パン屋で働きながら、サポートスクールで勉強を続ける少年
=ヨルダン・ザルカで2016年10月11日、久保玲撮影

 高温の石窯をのぞくと、円形の薄い生地に塗られたトマトソースの上でチーズが溶けていく。焦げ始めの タイミングで取り出すと、焼きたての香ばしいにおいが広がった。

 ヨルダン・ザルカの下町で1枚30円ほどで売られているパン。長い柄のついたへらを操り、生地を投入 するのは14歳の少年だ。この店で週7日働く。身長165センチできびきびと働く姿は大人と見間違うが、 笑顔には幼さが残る。

 毎朝午前5時に出勤し、掃除や具材の準備に取りかかる。夕方まで300枚以上を焼き上げると、帽子と エプロンは小麦粉で真っ白に。12時間近く働き、1日4ヨルダン・ディナール(約600円)を稼ぐ。

 ヨルダンでは16歳未満の労働を禁じ、雇用主は罰金を科されることもある。ILO(国際労働機関)の 調査によると、ヨルダンでは約7万5000人の子どもが農場や小売店などで働き、その中には1万人以上の シリア難民の子どもも含まれる。少年は匿名を条件に取材に応じてくれた。

 両親と姉の4人で2013年、シリア西部のホムスからアンマンに逃れた。脳梗塞(こうそく)の後遺症 で左足が不自由で働くことができない父(58)に代わり、7月から働き始めた。給料は全て母に渡し、家賃 の足しにしている。

 内戦の影響で学校が閉鎖され、シリアでは8歳までしか学べなかった。ヨルダンで3年ぶりに学校に通い 始めたが、授業についていけず通うのをやめた。「先生が言っていることがほとんど理解できなかった。楽し くなかった」

 パン屋で働き始めた頃、自宅の近くに学力の遅れを取り戻すためのサポートスクールがあることを知った 。ユニセフ(国連児童基金)がシリア難民向けに設立した。

 本来の昼休みは30分だが、週に2日だけ2時間の休憩をもらい、通うことにした。「勉強は今しかでき ない。お前は頭がいいのだから」。学校に行かずに10歳から働いているという経営者の男性(33)が理解 を示し、背中を押してくれた。

 アラビア語、英語、数学、理科の4科目を学ぶ。小学校低学年レベルからの復習だが、学ぶ喜びを初めて 感じている。「宿題をもっと出してください」とスタッフを驚かせた。

 仕事から帰ると眠くて宿題にかかれない日もある。「まだ14歳なのに、なぜこんなに苦労しないといけ ないの? あなたたちのせいです」。両親を責めたこともあった。

 「やめたいと思ったことは」。記者が尋ねると、ためらいなく答えた。「何度もあるけど、家族のために 私がやらなければなりません。他に誰が家賃を払うのですか?」【文・津久井達、写真・久保玲】=つづく

 

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