主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2016年ヨルダンのシリア難民 熱砂のかなたに (4)

空爆で左脚を骨折し、リハビリ中にサッカーボールで遊ぶリマールちゃん=ヨルダン・アンマンで2016年10月12日、久保玲撮影

空爆で左脚を骨折し、リハビリ中にサッカーボールで遊ぶリマールちゃん
=ヨルダン・アンマンで2016年10月12日、久保玲撮影

 腰を落として両手を広げる父親のムハンマド・ホラニさん(44)に娘のリマールちゃん(8)が笑顔を 返し、足元のサッカーボールを見つめる。松葉づえに体重を預けて右脚を引き、爪先から蹴り出した。ゆっく りと転がるボールをムハンマドさんが受け止め、優しく足元に返した。

 シリア内戦など中東の紛争で大けがをした患者の治療のため、「国境なき医師団」が運営するアンマンの 病院。10月上旬、下半身を固定するギプスが2カ月ぶりに取れたばかりのリマールちゃんがリハビリに励ん でいた。シャツと靴は大好きなピンクでそろえ、髪にはカチューシャ。ジーンズをはく両脚はやせ細っていた 。

 シリア南西部のダルアーで暮らしていたムハンマドさん一家。昨年7月2日深夜、自宅上空に政府軍のヘ リが近づいてきたが、発電機の音で気付かなかった。風呂場付近に2発のたる爆弾(バレルボム)を落とされ 、長男ワリードさん(当時14歳)がムハンマドさんの視界から消えたのを最後に、辺りが真っ暗になった。

 石壁が崩れて砂ぼこりが立ちこめる中、ムハンマドさんは家族の名を一人ずつ呼んだ。「私はここ」。消 え入りそうな声を頼りに、リマールちゃんを見つけた。「息が苦しい」と繰り返す娘を抱き上げ、介抱した。

 がれきの下で見つけたワリードさんの胸は、大量の出血でキラキラと光っていた。下半身は吹き飛ばされ 、既に息絶えていた。「『私の家にバレルボムが落ちた』と何度も叫んだ。私の顔は息子の血で真っ赤だった 」。ムハンマドさんは目を閉じて回顧した。

 ドラム缶を利用したたる爆弾は、火薬と共に無数の金属片が詰め込まれている。リマールちゃんの左脚の 付け根にはくぎなどが突き刺さり、骨を粉々に砕いた。いびつに固まった骨は放っておくと、成長と共に右脚 の長さとのずれが生じるため、定期的な手術が必要だ。難民として一家でヨルダンに移住後、手術を5回受け たが完治する保証はない。

 リハビリ中、上の前歯が生えそろわぬ屈託ない表情で笑っていたリマールちゃん。初対面の人にも物おじ せず、顔をゆがませて笑わせようとするひょうきんな性格だ。しかし、空爆を経験して以来、頭上を飛ぶ飛行 機や街頭で警備に当たる制服姿の軍人を見ると怖がり、笑顔が消えるのだという。

 シリアでは、毎日ボールを蹴りながら通学した。亡くなった兄ワリードさんとサッカーで遊ぶのが好きだ った。「昔のようにサッカーができるようになるの?」。あいまいな返事で娘をごまかす時、ムハンマドさん は終わらない内戦への怒りがこみ上げる。【文・津久井達、写真・久保玲】=つづく

 

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