主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2016年ヨルダンのシリア難民 熱砂のかなたに (6)

兄ジュマさん(右端)に見送られ、米国に旅立つフセイン・カリームさん(右から3人目)一家=ヨルダン・アンマンのクイーンアリア国際空港で、久保玲撮影

兄ジュマさん(右端)に見送られ、米国に旅立つフセイン・カリームさん(右から3人目)一家=ヨルダン・アンマンのクイーンアリア国際空港で、久保玲撮影

 ヨルダンの玄関口、アンマンのクイーンアリア国際空港は日付が変わる頃になっても発着便が途切れない。10月初旬の深夜、フセイン・カリームさん(31)一家が現れ、トランクから大量の荷物を降ろした。8カ月から13歳まで8人の子どもたちは経由地ローマの寒さに備え、ジャンパーやコートで厚着していた。

 見送りに来た兄ジュマさん(48)は一人一人に言葉をかけた後、フセインさんと抱き合った。兄が去っ た後、フセインさんは、声を上げて泣き崩れた。子どもたちは父の涙を無言で見つめていた。一家は「第三国 定住」という制度を利用して渡米するため、この夜ヨルダンを離れるのだ。

 シリア北部のアレッポから2013年4月にヨルダンに逃れてきた。シリア時代と同じタイル張りの職を 見つけたが、月に一度も仕事が入らないこともある。四女(2)と四男(8カ月)が新たに家族に加わり、生 活はますます苦しくなった。

 第三国定住は、母国に戻れない難民を避難先以外の国が受け入れて生活を支援する制度。昨年末、国連難 民高等弁務官事務所(UNHCR)から渡米を打診された。「アメリカで知っていることといえば、ニューヨ ークとオバマ大統領くらい。世界一の良い国なのでしょう」。なじみのない遠い国。

 「サウジアラビアやトルコには行けないのか」とUNHCRの職員に尋ねた。文化や宗教の違う米国で暮 らすことに不安があった。フセインさんはアラブ諸国の伝統的な衣装「カフィーヤ」を頭に巻く。相手への敬 意を表すためだが、奇異な目で見られないか心配だ。

 長男カリームさん(12)は「アメリカには行ってみたい。でも二度とシリアに戻れなくなるかもしれな い」と父に訴えた。ヨルダンに残る兄一家や、トルコに避難した両親と再会できる保証はない。フセインさん もそれを承知で決断した。

 フセインさんと妻ガザリさん(33)は、公的な教育を受ける機会に恵まれず、アラビア語で自らの名前 を書くのがやっと。子どもたちもヨルダンでは学校に通っていない。「自分たちのように何も知らない人間に なってほしくない」。子どもたちの将来を第一に考えた。

 フセインさんはこの日もカフィーヤを身につけていた。自分たちのルーツを忘れないよう、普段の姿で米 国の土を踏みたかった。「あとは神に頼りましょう」。期待と不安の入り交じった表情で搭乗ゲートへ向かっ た。【文・津久井達、写真・久保玲】=おわり

 

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