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自分の目でみた「世界」 伝える喜び 上海支局 隅俊之(すみ・としゆき) 00年入社

 夏の日差しが強かった。ほんの5㍍先に立つ中国の温家宝首相は、こぶしを握りしめて力説していました。「民衆は疑問を呈している。調査過程を公開し、透明を原則として社会の監督の下で進めなければならない」


 2011年7月に起きた中国の高速鉄道事故。当局が事故車両を埋め、救助より運転再開を急いで国民の批判が殺到していました。現場で会見した温首相の顔はやつれ、覇気がありません。それでも一つ一つのカメラに顔を向けながら訴えるその表情からは、さまざまな矛盾が噴出するこの国で、人口13億人の運命を握る指導者の苦渋のようなものが垣間見えました。


 上海特派員として、めまぐるしく変化する中国社会を伝えています。広東省でひき逃げされた2歳の女児の前を18人が素通りし、道徳心が問われた事件。村人は「タダ」で一戸建てや高級車をもらえる中国の経済発展を象徴するような江蘇省華西村。中国の「いま」を物語る現場に足を運び、自分の目で確かめ、感じたことを伝えています。時には一国の指導者に会うこともあります。


 「私たちは世界をどれだけ知っているんだろう」。いつも思うことです。例えば中国。政治的にも経済的にも無視できない日中ですが、尖閣諸島沖の漁船衝突事件などの影響で互いの国民感情は悪いままです。一つにはメディアの責任もあります。個々のニュースは事実でも、中国のすべてを表すわけではありません。だから現象面だけでなく、そこに生きる中国人の息づかいを伝えたい、といつも思う。


 高速鉄道事故の取材の時、出会った若者がこう言いました。「僕はこの国の未来が怖いんだ」。人類が経験したこともない急激な変化の中に生きる人々は、まさに時速300㌔で疾走する高速鉄道の乗客。そこには日本人には想像できないような不安や戸惑いがいつもあります。記事に書きました。東京の友人がメールをくれました。「なるほどね。中国が少し分かった気がする」


 特派員の責任は大きい。中国では人権問題や少数民族問題など"敏感な問題"を取材する時は当局の厳しいマークも受けます。一方で、その国に生きる人々の姿を等身大の形で伝えられた時、この仕事を選んで本当に良かったと実感します。


 特派員なんてなれないと思っていませんか。とんでもない。私も学生時代の夢がかなうなんて思ってもいませんでした。「世界を自分の目で確かめたい」。その情熱さえあれば全ての人にチャンスがあります。夢はかなえるためにあります。

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