第2回座談会


障害があっても、競技場で見たい

 

毎日新聞が進めるバリアーゼロ社会実現キャンペーン「ともに2020」などへの提言をしてもらう「毎日ユニバーサル委員会」の第2回座談会が2017年7月6日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。今回のテーマは「障害者の競技場アクセシビリティー(利用しやすさ)」。東洋大ライフデザイン学部教授の川内美彦委員が基調講演した後、委員が意見交換した。【司会は小松浩・毎日新聞主筆、写真は根岸基弘】

鈴木大地スポーツ庁長官(奥左から3人目)らが出席し開催された「毎日ユニバーサル委員会」座談会
鈴木大地スポーツ庁長官(奥左から3人目)らが出席し開催された「毎日ユニバーサル委員会」座談会

障害者の競技場アクセシビリティー  川内美彦委員基調講演

 

2020年東京五輪・パラリンピックの競技施設について、大会組織委員会が独自のバリアフリー指針「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」を策定したが、これは国際パラリンピック委員会(IPC)のガイドラインを基にしている。歩行困難者に関係する席は車いす席、同伴者席、付加アメニティー席の3種類ある。付加アメニティー席は、車いすを使わないが歩行が困難な人のために、少し広めの席を求めている。五輪・パラリンピック以外は総座席数の0・5%、五輪では0・75%以上の車いす席を求めている。パラリンピックでは種目によって1%または1・2%となっている。

日本でも、バリアフリー法が制定されている。観客席までの通路等のバリアフリー化を規定しているが、観客席のアクセシビリティーについては何も言及していない。車いす席があるだけで、日本では「よくやっている」というレベルなのが現状だ。広島市のマツダスタジアムが健闘しているが、それでも3万3000人収容で車いす席は142席。割合は0・43%で、IPCの基準に達していない。東京ドームに至っては12席、0・026%だ。車いす席を設置するかどうかは施設の考え方次第だから、毎日新聞の報道にもあったが、宮城スタジアムのように「(車いす席が)果たして必要か」との考えが起こってしまう。

バリアフリー法に観客席の規定がないことが明らかになり、所管する国土交通省は同法のガイドラインに「追補版」を発行した。だが、これには法的拘束力がない。つまり、建築主の気分次第で整備されたりされなかったりするということは、障害者の「権利」ではなく「恩恵」に過ぎない。英米では平等や人権のためにアクセシビリティーを整備しているが、日本ではそれが一切ない。国交省は「権利」の問題を避けている。

この前、奄美空港で車いす使用者が階段式のタラップを上らされたバニラ・エアの問題も同じだ。バニラ・エア問題についてバリアフリー法では対応できない。アクセシビリティーが実現されることで、他者との平等を実現させるのが海外の基本的な考え方だが、日本では鉄とコンクリートで一定の形をつくることは決めても、他者との平等について考えてはこなかった。

つまり問題の本質は、国が高齢者や障害者をどう扱おうとしているのか、この社会でどのようなステータス(地位)を与えようとしているのかということだ。バリアフリー法の改正ではなく追補版で片付けたことで、IPCがうたっている「アクセスは基本的人権であり社会的公正の基本である」という理念が無視された。これらは五輪・パラリンピックのレガシー(遺産)にも影響が出てくる。競技に使った施設は残るが、その後につくられる競技施設に、五輪・パラリンピックのレベルを求める法律はない。何がレガシーなのだ、ということになる。

 

差別への認識にギャップ 河合さん/法改正、簡単にいかない 川内さん

 

小松主筆 非常に重く、鋭い問題提起をありがとうございました。これからは、できるだけ川内委員のお話に沿って、フリートークをしていただきたいと思います。平等という観念を日本の社会はどう考えるかということから始まり、法律と基準の乖離(かいり)、今後への懸念も含めて、まずは河合委員はいかがでしょうか。

河合純一委員 川内委員に指摘していただいた通り、日本人には平等や権利に対する哲学がない。「今、日本で障害者に対する差別があるのか」と聞くと、意外にも「ないのでは」と答える人がかなりいる。「いやいや、そうではなくて」というところから入るのは相当な労力がかかり、差別が「ない」と思っている人に気付かせるには、相当な時間を要するところがあります。そのような感覚も含めて、私は認識にギャップがあるなと感じました。競技会場の直接的なアクセシビリティーの話ではないが、東京都が整備する水泳会場の「オリンピックアクアティクスセンター」のように、名称にパラリンピックのことを全く入れていない。メディアの人と話す機会があったが、「パラリンピックの文字を入れると名前が長くて報道しにくい」と言っていた。こういう時代なのに、なぜか誰も「施設名にパラリンピックが入っていないのか」と言わない。この問題も早めに解決したいと思っています。

鈴木大地委員 スポーツ施設について、スポーツ庁として話をさせていただきたいと思います。スポーツ庁の参与で、雪下岳彦さんという車いすの医師がいる。スポーツ庁の中で勉強会をやっていて、雪下さんがこんな話をしていた。彼は米国の大学に留学したことがあり、かつスポーツ観戦が大好きだということで、日米の障害者がスポーツ観戦する際の差を指摘されていた。川内委員が言われたことがほとんどだと思うが、まだまだ障害者のための観客席数が圧倒的に少ない。観客席もそうだが、競技会場に行き着くまでのアクセスにも問題がある。席は十分あるけどもとんでもないところに駐車させられて、観客席に着いた頃にはへとへとになってしまうという。そのあたりについても配慮が必要だろうと思っています。スポーツ庁では、スポーツを「する、見る、支える」という観点からスポーツ参画人口を増やそうと思っており、「見る」ということを障害者の皆さんにもっと楽しんでいただけるよう配慮していきたいと考えています。障害者スポーツは3年前から厚生労働省から文部科学省に移管され、今はスポーツ庁が担当です。福祉という観点に限らずスポーツを万人が楽しめるようにしたいし、共生社会の実現もミッション(使命)。スポーツに関する政策は縦割りではなく、なるべく一元化、総合的、一体的にスポーツ庁がやってまいりたい。

小松主筆 長年、省庁でガイドラインや法令をつくってこられた桜井委員はいかがでしょうか。

桜井俊委員 川内委員が言われる通り、権利を平等に享受できないといけないというのは、まさにその通りだと思います。だが、そういうものを法制度化していくとなると、前提として国民的なコンセンサス(合意)が必要になってきます。やはり五輪・パラリンピックを一つのターゲットとして、そういう議論を巻き起こしていくプロセスがないと、なかなか動かないという側面もあります。

河本宏子委員 先ほど川内委員のお話にありましたバニラ・エア(ANAグループの100%子会社)の件ですが、まずはアシストストレッチャーの配備を至急指示いたしました。空港施設に制約があったのは確かではありますが、バニラ・エアとして、きちんと態勢が整えられていなかったのは事実であり、お客様へのおわびとともに至急の対応をさせていただきました。一方で、さきほどの競技施設と同様、空港も社会インフラの一つであり、コストをどう負担していくかということに関しては、お客様の使いやすさとバランスしていくのが課題と感じています。個々の航空会社の判断ではなく、業界全体のルールなどといった大きな枠組みの中で決めていくことも必要ですし、そこに対する弊社の働きかけもあると思います。<15面につづく>

 

五輪・パラから国民的合意へ 桜井さん/空港施設も業界でルールを 河本さん/会場アクセスの配慮も必要 鈴木さん

 

小松主筆 バリアフリー法を改正するのが手っ取り早い気がします。そういう機運はないのですか。

川内委員 そう簡単ではありません。簡単に変わるのであればもうとっくに変わっています。言葉は悪いが「抵抗勢力」というか、例えばバリアフリーを整備すれば運賃が上がってしまうという懸念で反対する人も少なからずいます。

桜井委員 一般論として、「○○基本法」というのは議員立法が多く、具体的な権利義務関係がほとんど発生しないケースが多い。今、議論になっているのはいわゆる「規制法」です。規制される側の利害が当然出てくるわけで、「正しいからこうするんだ」だけでは、なかなか前に進まないと思う。メディアの取り組みも含めて、「当然規制されるんだ」という環境にまでもっていく努力が必要になると思います。

小松主筆 鉄道駅へのホームドア設置もそうですが、メディアもできるだけこの状況を改善していきたいと思っています。前回の座談会以降も、弊紙では「ともに2020」でキャンペーン報道を続けてまいりました。担当の責任者から報道内容の概略を説明し、それを踏まえてまたご意見をいただければと思います。

砂間裕之編集編成局次長 ホームドアについては昨年12月から今年3月まで継続的にやってきましたが、それ以降は「第2弾」として、2020年東京五輪・パラリンピックの競技会場で、座席数としてどれだけ障害者の視点を考えているかというハード面と、そこで苦労をしているソフト面の話などを4月以降に掲載してきました。

4月6日の朝刊では、車いす席がどれくらいあるのかを独自に調査し、1面と社会面で多面的に報道しました。その結果、やはりガイドラインを満たしている競技施設は非常に少なく、8割がガイドライン未満の施設であることが分かりました。その中の一つで、柔道競技を実施する日本武道館は非常に古く、バリアフリー化はかなり難しい建物ですが、一生懸命努力し、何とか少しでも車いす席を増やそうとしています。現在は24席ですが、それを仮設も含めて150席にしたいそうです。武道館がある九段下は坂が多いですが、職員が車いすに乗って実際に移動を体験するという努力も記事化しました。

その他、川内委員にご紹介いただいた宮城スタジアムの問題や、昨年、五輪・パラリンピックが行われたリオデジャネイロの実情、新宿に新しくできたバスターミナル、エスカレーターの「片側空け」問題、空港連絡バスなどの問題について取材、報道を進めています。我々も全部網羅するのは難しいですが、委員の方々のお話を参考に、またさらに勉強をしていきたいと思っています。

桜井委員 映画配給大手4社が、映画館で音声ガイドをスマートフォンで行っているという記事を見て、いろんな取り組みが始まっているんだなという印象が残りました。最初に駅のホームドアの問題。移動するに当たってのリスクをどうやって減らしていくかという問題提起でした。今回は車いすの座席ということで、読んでいる時は感じていなかったが、改めてキャンペーン報道として見ると、一貫した取り組みになっているなと思います。もちろんインフラ整備は必要なことだが、それに加えて、特にスマホが普及している中で、スマホや交通ICカードなどの活用を含めたソフト面の充実を図っていくというのが必要ではないかと思います。

河合委員 桜井委員がおっしゃったアプリを使ってこの前映画を見たが、よくできているなと思いました。どこの映画館でも使えます。また、今後のキャンペーン報道のアイデアなのですが、せっかく「ともに」なので、20年大会をきっかけに、障害のある子供たちと一緒に活動しているスポーツ団体、体育の授業、クラブ活動など先進的な事例をどんどん紹介してほしい。私は全盲になったが、大学入学後に水泳の授業を単位取得し、無謀にもスキーの授業も取った。理解がある先生と助手の方と一緒に1週間ゲレンデに行ったら滑れるようになり、その時に他の学生から「河合君、すごく上手になったね」と言ってもらってすごくいい関係性ができた。そういうよい事例が日本全国、世界にもあると思います。法制化の話ではないが、そういうことが国民的なコンセンサスを得ていく過程になると思うので、何かのタイミングで特集してもらえればありがたい。

鈴木委員 エレベーター、エスカレーターの記事もあるが、本来、エレベーターなどは障害者や妊娠中の人、高齢者などが優先して使うべき施設だ。ところが、実際には健康な人が率先してエレベーター、エスカレーターに乗っているという現状がある。健康な人が利用することによって何が起きたかといえば、運動不足や肥満でした。便利なモノが、生活習慣病の罹患(りかん)者を増やしているという側面もある。「歩くこと、つまりスポーツをすることで健康になる。階段の利用を選んでみませんか」というようなこともメディアでどんどん発信していただきたいと思います。ちなみに私も、スポーツ庁が入っているビルの13階にあるオフィスまでできる限り階段で上っております。

河本委員 障害者だけではなく、高齢で歩くことや階段を使うことが難しい方にも、耳を傾けていかなければならないと思っています。お客様が車いすを利用される理由はさまざまですが、空港や機内でも、より移動しやすくなるようにサービスを近代化させていきたいと思います。さらに多くのお客様に楽しんで旅行に出かけていただくために、それぞれの事情により添った、きめ細かな対話を続けることが必要だと考えています。

川内委員 日本の社会は、法律が作られると守ろうとする。その法律を作るにはコンセンサスが必要で、ニワトリが先か卵が先かというところがあるが、そういうところでメディアが力を発揮してほしい。

 


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