第70回出版文化賞の受賞者


第70回毎日出版文化賞(特別協力=大日本印刷株式会社)と書評賞の贈呈式が2016年11月25日、東京都文京区の椿山荘で開かれました。受賞者の挨拶を紹介します。

第70回出版文化賞の受賞者

出版文化賞

島田雅彦さん

政治、社会の右傾化懸念 島田雅彦さん

小説『虚人の星』(講談社)で文学・芸術部門を受賞した作家の島田雅彦さんは「政治的に際どいことを書いた」と切り出し「ネトウヨの方々から総スカンをくらう中、援軍を得た思い」としみじみ語りました。また「18歳の頃、毎日新聞の朝刊の配達を半年間欠かさずやった」と本紙との縁を紹介しました。

さらに「昨今、良識ある市民がアウェー(孤立した状況)に置かれている」と政治と社会の右傾化に懸念を示し、暗い未来を招かないために「もっと際どいことを書いていきたい」と決意表明しました。


塩出浩之さん

報われた「無謀な試み」 塩出浩之さん

『越境者の政治史』(名古屋大学出版会)で人文・社会部門を受賞した塩出浩之さんは「大学院時代から始めた研究だが、今考えると無謀な試みだった」とユーモアを込め振り返りました。幕末の開国以来、北海道や南樺太(サハリン南部)、ハワイなどさまざまな地へ渡った日本人の移民の動きを包括的にとらえようとした労作で、「長い時間をかけてまとめられたのは幸せなこと。賞をいただき、報われた」と語りました。

主権国家主体の政治史を逆転させたという選考委員の評に、「研究を正面から受け止めてくださった」と感謝を述べました。


佐藤恵子さん

自分の興味、自信に 佐藤恵子さん

『ヘッケルと進化の夢』(工作舎)で自然科学部門を受賞した佐藤恵子さんは「自分なりの興味は何なのか考えながら、勝手に研究をしてきた。このような作品で賞をいただき、自信を取り戻し、ほっとした」と語りました。

さらに「進化論者だったエルンスト・ヘッケルは非常にミステリアスな人物。日本ではあまり名前を知られていないが、彼の科学理論は、19世紀末のドイツの思想、市民社会、芸術文化と総合的に影響関係にあり、興味深い歴史的現象であると思った」と、執筆のきっかけを振り返りました。


五味文彦さん

底本作り学術邁進 五味文彦さん

『現代語訳 吾妻鏡 全巻17冊』(吉川弘文館)で企画部門を受賞したのは五味文彦さん、本郷和人さん、西田友広さん、遠藤珠紀さん、杉山巖さん。編者を代表してあいさつした五味さんは「歴史資料には多様な解釈があり、その一つ一つが一本の論文に相当する。それを一つの現代語訳にするのは非常に難しい作業。できはしないと思った」と話しました。

「鏡の会」という研究会も作り、「みんなで読んでいった」と言います。今後は「しっかりした底本を作って、学術に邁進(まいしん)したい」と抱負を語りました。

書評賞

荒川洋治さん

本に向き合う幸せ 荒川洋治さん

『過去をもつ人』(みすず書房)で、今回が最後となった「書評賞」を受賞した荒川洋治さんは「本はほとんど見ているという感じ。好きな本はもう一冊買う。同じ本でも印刷の具合やカバー、活字の組み方、じーっと見ると違う。非常に繊細なところが出版文化だと思う」と力を込めました。

書評を執筆していると「一つの本に対して自分が向き合い、その記録を残す、ささやかな仕事」に幸せを感じる一瞬がある。「いろいろ経験してきたことも、チョイと文章の中ににじんでいるのかな」

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