週刊「1億人の平成史」


第9回

小林よしのりさんの「平成:わしの戦い」(3)

―― 天皇制の危機 ――

小林よしのり

昭和28(1953)年、福岡県大野城市生まれ。漫画家。昭和51(1976)年、福岡大学在学中に『東大一直線』でデビュー。平成元(1989)年、『おぼっちゃまくん』で小学館漫画賞を受賞。平成4(1992)年連載開始の『ゴーマニズム宣言』は、社会派漫画、思想漫画として話題に。平成10(1998)年、「ゴーマニズム宣言」のスペシャル本として発表した『戦争論』は、シリーズ160万部を超える大ベストセラーとなった。近刊に、『ザ・議論!』(井上達夫と共著)、『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論 平成29年』、『ゴーマニズム宣言SPECIAL 大東亜論・第三部 明治日本を作った男達』、『日本人なら知っておきたい天皇論』(田原総一朗と共著)など。


(承前)

因習の克服

――(平成史編集室 志摩和生)小林さんは宮中のお茶会にも招かれましたね。平成の天皇陛下のお人柄をどのようにご覧になりましたか。

小林 陛下のお人柄を言うことは難しいですけどね。

 天皇陛下を見ていると、歴史や伝統を守り続けていくためには、近代的な頭脳も要るということがわかります。そうじゃなければ、伝統は続かないんです。

 昭和天皇も全然古い慣習などには固執していなくて、どんどん宮中を改革してこられたじゃないですか。

 例えば昔は宮中に女官がいっぱい住み込んでいて、側室もいるのが当たり前でした。今の時代から見れば野蛮な悪習だといわれるでしょうが、当時は民間でも妾(めかけ)を囲うのは男の甲斐(かい)性とか言われていたのです。しかしそんな時代に、昭和天皇は側室を廃止し、女官を通勤制にしました。

 また、昔は乳人(めのと)制度、傅育官(ふいくかん)制度というのがあって、天皇の子供は親元から引き離して育てることが伝統とされていました。

 昭和天皇はお手元で子供を育てたいという望みをお持ちだったが、当時の情勢からそれはかなわなかった。そのため皇太子時代の今上陛下は孤独な育ち方をされて、ご結婚前に美智子さまに「私は温かい家庭を持つまでは絶対に死んではいけないと思った」と漏らされたほどです。

 それで皇太子(今上陛下)が美智子さまとご結婚し、浩宮さま(現皇太子殿下)が誕生すると、昭和天皇のご意向も受けて、親子が同居して家庭を作られたわけです。

 昭和天皇も今上陛下も生物学の研究をされていますが、そのためには近代的な頭脳じゃないといけないでしょう。近代的な頭脳で、この時代が客観的に、神の視座から見たときに、どのような時代として捉えられるだろうと考え、どういう時代にしようかと考え続けてこられたわけです。

 それまでの皇族方が生物学を中心とした自然科学を専攻されてきたのに対して、皇太子殿下は史学を選ばれた。これは画期的なことです。

 次の時代をつくられる皇太子殿下は、今の時代の中に欠けているものや、今の時代がおちいりやすい罠(わな)などを全部見抜いて、次はどういう時代にしていくのがいいのかということまでマクロにながめて、そのためには自分はどのような象徴になればいいだろうかと考えていくでしょう。そこまで考えなければ、天皇は務まらないものです。

 そういう視座で世の中を見ていくのは重要なことで、次の時代はどうだろうとか、教訓を与えてもらえます。

 そうして見ると、やっぱりわしは、もう男尊女卑の感覚はなくさないと、時代が行き詰まるとしか思えません。少子高齢化で、子供がどんどん生まれなくなっていますが、その原因には、日本が女性を虐げている時代からまだ脱し切れていないということが大きい。これをなんとかしなければ、日本民族は滅んでしまいます。

 例えば山尾志桜里氏は、証拠写真の1枚もないのに不倫疑惑報道が出ただけで民進党を離党しなければならなくなったけれど、以前、細野豪志氏の不倫が発覚した時には、決定的写真を撮られていたのに離党なんて話にはならず、役職停止だけで済んでいました。女には罰を与えるが、男は不問に付すなんて、これでは戦前の「姦通(かんつう)罪」の延長線上です。

 こういう男尊女卑的な感覚を終わらせなければ、次の時代は作れません。「八つ墓村」みたいな、古臭い因習に閉じ込められて身動きの取れない状態がつづくだけです。

 それならば新しい時代の象徴として、女性天皇が即位することを可能にするべきです。そうして愛子さまが次の皇太子になれば、女性が本当に活躍できる世の中になるでしょう。

 でも、女性天皇はずっと阻止されつづけているわけです。女性天皇を作らせない、男性天皇しか許さないという、男尊女卑の旧弊にこだわりつづける人たちがいるからです。やっぱりこれが諸悪の根源で、これをなんとかしないと、天皇も、日本も、ほんとに滅んでしまいますよ。

権力とのあつれき

――次の改元は、天皇の意思的な退位によっておこなわれる、という点でこれまでと違いますね。そこに至るいきさつの中では、政治権力とのあつれきも感じさせました。それは次の時代にも引き継がれるのでしょうか。皇室と政治権力の関係はどうなるとお考えですか?

小林 結局、天皇陛下の自由意思をどのくらい認めるのかということが問題です。

 天皇には意思などない、自由意思による退位なんか認めない、死ぬまでやれと言っている人たちに抗して今回、陛下は封じ込められていたご自分の意思を表明されたのです。

 意思を表明することすら封じ込められた天皇とは、井上達夫さん(法哲学者、東京大学教授)みたいなリベラルな人から見たら、奴隷状態だとしか思えないでしょう。だから井上さんは天皇制廃止を唱えている。実際、人権も自由も認められない天皇という生贄(いけにえ)の上に成り立っている制度では、いったいいつまで続けることができるのか、わかったものではありませんよ。

 そう考えると、天皇制を続けたいなら、やはりご自身の退位くらいは自由に決めさせなければならないし、そのあと誰が継ぐかぐらいは、陛下のご意思を忖度(そんたく)しなければいけません。

 それをやらないと、天皇制は続きませんよ。天皇制の存続を、あんたらが潰してるんでしょって言いたいです。

――政治権力のほうが?

小林 政治権力のほうが、天皇制を危うくしているんです。

 戦時中は軍部が天皇を政治利用していたが、いまも政治権力がそれをやろうとしているわけですよ。

 戦時中は、天皇陛下バンザイを叫んで、天皇を「現人神(あらひとがみ)」に祭り上げて、天皇を政治利用する状態がずっと続きました。

 昭和天皇ご自身は、自分は神ではないし、美濃部達吉が言うように「天皇機関説」でかまわないと思っていたのに、当時の政治権力や軍部たちは、天皇の本当の意思なんか聞きもせず、すべて封じ込めた。そして、天皇は神であって、天皇の意思はおれたちが全部代弁するとした。

 その政治利用の仕方は、いまの自称保守の連中もまったく同じです。産経新聞は朝日新聞などに比べて、皇室に関する情報をずっと多く掲載して尊皇派を気取っていますが、その実、天皇陛下のご意思は全く認めず、ただ政治利用するんです。

 いかにも天皇陛下バンザイみたいな記事を書いたり、雑誌「正論」で天皇特集みたいなものを出したりするのですが、明らかに天皇陛下が女性天皇・女系天皇に道を開きたいというご意思をお持ちであることは無視して、男系しか天皇にはしない、女性・女系天皇を認めないと強硬に主張するわけです。

 このままでは今上陛下が退位され、皇太子殿下が即位されたら次の皇太子の座が空位になってしまいます。そこで政府は秋篠宮殿下を皇太子にしようとしたのですが、秋篠宮殿下はそれを拒否しました。そこで、皇太弟(こうたいてい)という名前で皇太子に準ずる地位にすることも検討されましたが、それも殿下は拒否しました。

 要するに、皇太子の座は空位にするという、秋篠宮殿下ご自身の意思がはっきりあるわけです。

 皇太子が空位だと、祭祀(さいし)が伝承できません。祭祀は一子相伝で長子にのみ伝承していくものであり、秋篠宮殿下は祭祀を継承していません。最初から天皇にはならないという前提で育てられているのです。

 ですから秋篠宮殿下は、次の皇太子は愛子さまがなるべきだと思っておられて、それで自分が皇太子やそれに準ずる地位に就くことは、頑として拒否されたのでしょう。

 しかしそれでは、新しい天皇と、皇位継承順第1位の秋篠宮殿下が6歳しか違わず、共に年老いていくのを見るしかない。次世代を担う皇太子殿下がいないから、ずーっと未来が見えないという時代が、えんえんと続いていくことになります。

 そうなれば、天皇制は終わりますよ。女性皇族がみんな嫁いでいって、眞子さま、佳子さま、愛子さまもいなくなる。最後には、皇位継承者は悠仁(ひさひと)さまたった一人になる。それで、悠仁さまの子供に男子が生まれなければ天皇制は終わりです。

 そこで、男系しか認めない連中は、昭和22(1947)年に民間に下った旧宮家の男系子孫を皇室に入れて、男系の宮家をつくればいいと言っています。

 しかし旧宮家の男系子孫って、民間に生まれ育った完全なる一般人ですよ。それが突然やって来て、これからこの人が皇族ですと言われたって、「誰だ、それは?」ってなってしまうでしょう。

 しかも、まったくの一般人なんだから、それまで生きてきた中で、恋愛経験もあるだろうし、どんな世俗的なことに汚染されているかわからないし、スキャンダラスなことを抱えているかもしれない。それを写真週刊誌とか、週刊文春が全部ばらしてしまったりしたら、そんな人に対して、皇族として敬意をもつことができますか?

 それに、そもそも皇族になるということは、国民が当然もっている基本的人権や自由を失うということです。それを覚悟した上で皇室に入りますという意思を持っている人が本当にいるんでしょうか?

 そういう問題があることがわかってくると、男系に固執する人たちは、旧宮家の男系子孫の赤ちゃんを連れてきて、宮家の養子にすればいいと言い出しました。何もわからん赤ちゃんのうちに皇室に入れて、物心ついたときから皇族として育てりゃいいというのです。

 あまりにも非常識だと思いますが、その赤ちゃんは、産んだ母親から引きはがしてこなきゃいけないのですよ。そんなことを承諾する親がどこにいますか? もう、ひとさらいじゃないですか。

 しかも、その赤ちゃんを皇室の中で、誰が育てるんですか? 宮家の当主方はご高齢になってきていますし、育てる人がいない。実現させようのない空論なんですよ。

 だから、眞子さまも結婚させる前に、女性宮家が創設できるようにして、結婚されても民間人にならず、皇族として残れるようにしなきゃいけないんです。皇族の絶対数が少なすぎるんですから。

 インタビューの趣旨から外れてしまうかもしれないけれど、本当は、平成が終わって次の元号になるとかいう話をしている場合ではないんですよ。元号はなくなるかもしれないんですから。

――平成の次くらいで……。

小林 そう、平成の次で元号も天皇制も終わりかもしれない。

 男系男子にこだわること自体に完全に無理があって、このままでは次世代の皇族は悠仁さまたったおひとりになってしまう。

 そして、悠仁さまにお嫁さんが来ても、絶対に男子を産まなければならない。女子が生まれても意味がないという制度なんですからね、今は。

――――まさに男尊女卑ですね。

小林 ですから悠仁さまの妻になる女性は、男が生まれるまで子供を産めよ、女は男を産む機械なんだから、という扱いを受けることになります。そんなところに誰が嫁に入りますか?

 雅子さまだって女児しか生まれなかったことで人格を否定されて、さんざんバッシングされて、適応障害になってしまわれたのです。今度は、男子を産まなければ天皇制が終わるのですから、どんなプレッシャーをかけられるかわかったものではありません。

 それがわかっていて、それでも悠仁さまと結婚する女性などいるわけがない。もしいたとしても、親が猛反対するでしょう。自分の娘をそんな不幸な目に遭わせていいと思う親なんかいませんから。

 そうなると、このままでは天皇制は終わるとしか言いようがありません。

 天皇制を続けたいのなら、皇室もイギリスのように近代化しなければいけないのです。国民は自分たちだけどんどん近代化して、自分たちだけ自由を謳歌(おうか)しておいて、天皇・皇族だけは自分の意思を表明する自由もない奴隷で、そこに嫁いだ女性は男を産むためだけの機械として扱うという前近代の因習の中に封じ込めておくなんて、日本国民よ、お前らは一体何様なんだという話ですよ。

 イギリス王室は300年続いた年長男子優先の王位継承ルールを撤廃して、男女平等にしました。イギリス国王には、首相に政治的な問題でも自由に発言できる権利が認められています。少なくともイギリスくらいの状態にしないと、天皇制は続かないですよ。

 それなのに日本人は、天皇制について政治家も、誰も考えていません。

グローバリズムに抗して

――その天皇制の問題含め、平成で解決しなかった問題が、次の時代にまたのしかかってきそうですね。そういう問題は他にありますか。

小林 平成の時代に解決しなかったいちばんの問題は、「グローバリズム」だと思います。グローバリズムを克服できていないことが問題です。

 なぜ日本が高度経済成長して豊かになったのかというと、その時代はグローバリズムではなかったからですよ。冷戦構造があったから、日本を共産化させないように、過度の競争を抑える規制がちゃんとあって、社会福祉をしっかりやっていたから、将来不安がなく一億総中流で、誰でも結婚して子供を産んで、家を建てて……という人生設計ができたわけですね。

 ところがグローバリズムになると、規制はどんどん撤廃されて、弱肉強食になり、格差が広がる。貧困層は結婚もできず、お金があっても将来不安があるから貯蓄に回すので、消費は落ち込み、資本主義を発展させる活力が生まれない。グローバリズムを推進したら、資本主義が停滞するのです。ところがこれに気づく人がいないんですよ。みんな、グローバリズムを進めると経済が成長するものだと洗脳されていますからね。

 だから、この洗脳をどうにかして解かなければならないのですが、政治家も、マスコミも、もっともっとグローバリズムを推進せよとしか言わない。もっと規制緩和して、もっと構造改革して、もっと弱肉強食にしろと言い続けていて、どうにもなりません。

 グローバリズムを推進すれば、底辺への競争になるわけですよ。日本人の賃金も、中国人とかインド人とか、外国の最低の賃金水準まで下げていこうというのがグローバリズムであり、そういう経済政策をとってきたのだから、実質賃金が上がるわけがないのです。

 グローバリズムに対抗するためには、本当の意味でのナショナリズムを確立しなければなりません。グローバリズムとは、国境をなくして全世界を均一化しろということであり、すなわちナショナリズムを捨てろということなのですから。

 わしはグローバリズムではなく、インターナショナリズムでないとダメだと言っています。個々のナショナリズム、個々の国柄を大事にして、日本は日本のお米や牛肉を全部保護して、そのうえで相手の産業を潰さないように、お互いの得だけを考えた貿易の条件を国ごとに丁寧に結ぶのです。

 グローバリズムは世界中の関税をゼロにしろということですから、そんなことをしたらどんどん自国の産業が潰されていきますよ。

――保守政治家はそこを食い止めねばならないのに。

小林 だから、今の日本には保守がいないんですよ。

 自称保守は全然保守じゃないから、グローバリズム賛成でナショナリズムはいらないと思ってますよ。日本の文化や環境を形作る稲作を捨ててしまってもかまわない、自動車産業でもうけられればいいじゃないか。ほかの国の産業も潰してしまえ、弱肉強食でいいじゃないかと思っている。

 それがグローバリズムであって、基本的にこれは左翼ですよ。でもそれが保守だと思っているバカどもが自民党と希望の党にいます。

 グローバリズムはいけないということがわかっているのは共産党だけですよ。でも共産党は天皇制を認めない。困ったものです!

(この項、終わり)*毎週月曜日更新

次回は磯田道史さんが語る「歴史家にとっての『平成』」

写真:毎日新聞出版・髙橋勝視