#地球塾2050

第5回 三菱地所株式会社

 江戸時代からの歴史的背景を持つ東京駅前の常盤橋街区(敷地面積約3万1400平方メートル)で、三菱地所が「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」と名付けた街づくりを進めています。2016年に始まった再開発で、27年度には日本一の高さ390メートルの「Torch Tower(トーチタワー)」が完成する予定です。東京都庁第1本庁舎(243メートル)と比べると、その規模の大きさを想像できるでしょう。広さ約7000平方メートルの広場も整備され、にぎわい空間も創出します。

 
常盤橋タワーの22階からトーチタワーの建設予定地を見渡す生徒たち

 10月15日に開催された地球塾は「2050年の東京と日本を構想しよう」をテーマに、トウキョウトーチに建つ常盤橋タワー(212メートル)で行われました。今回は初めて公募し、集まった中学生は19人。知らない人が多いせいか、緊張気味です。保護者や引率教諭らも参加しました。まずは3班に分かれて、約1時間かけて22階からトーチタワーの建設予定地を見渡したり、オフィスビル内を見学したり、敷地内を散策したりしました。案内役は三菱地所TOKYO TORCH事業部の谷沢直紀さん、山川咲子さん、鈴木千聖さんの3人です。

常盤橋タワーの外に出て、常盤橋街区を歩く生徒たち

 日本橋川に架かる常盤橋周辺を歩きながら、街の歴史を解説してくれました。江戸時代の参勤交代で、大名行列が江戸城へ向かう表玄関「常盤橋御門」は、この常盤橋街区にあったそうです。この場所の過去と未来に思いをはせながら、生徒たちはスマートフォンで撮影したり、「楽しい!」を連発したり、すっかり緊張も解けたようです。

 では、完成したトウキョウトーチは、どんな街として現れるのでしょうか。視察後、プロジェクトの責任者である茅野静仁執行役員が説明してくれました。

 高さ390メートルのトーチタワーには「空飛ぶクルマ」の離着陸場の設置や、ビルの高低差を利用した小水力発電、窓ガラスを使った太陽光発電などが検討されているそうです。約350メートルの高さに設ける展望台ではリアル観光に加え、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を活用した空間体験の提供も検討中とのこと。しかし、何よりも重視しているのは、「日本を明るく、元気にする」ことだそうです。そのために、「東京だけではなく、地方も元気になる街づくりをとの強い思いを込めて事業を進めています」。

 
上空から見たトウキョウトーチの完成予想図(C)isnadesign

 例えば、先行整備された広場には、錦鯉発祥の地として知られる新潟県小千谷市と共同企画した「錦鯉が泳ぐ池」があります。広島市の原爆ドームに隣接する複合施設「おりづるタワー」と連携したモニュメントも設置され、平和への思いを共有しています。この広場を全国の自治体と連携して情報発信拠点にするのを目標としています。エリア内の施設では各都道府県出身の学生が特産品のセレクトショップを経営するプロジェクト「アナザー・ジャパン」も展開中です。学生は地方に赴き、仕入れや店舗づくりなどを実践します。学生と地元企業をつなぎ、日本各地に新しい価値を還元する仕組みを構築しているとのことです。

 
プロジェクト「アナザー・ジャパン」が展開されている店舗の説明を受ける生徒たち

 茅野さんは、常盤橋街区を含む東京駅周辺の「大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有地区)」が歩んできた歴史も説明してくれました。

 江戸時代の丸の内には大名屋敷がありましたが、明治維新で消滅しました。三菱は1890年、政府から約35万3300平方メートルの広大な土地の払い下げを受け、野原が広がる場所に赤レンガ建築の街並みを整備したそうです。当時はまだ、東京駅はありませんでした。大正時代には鉄筋コンクリートビルの建設が進んでビジネスセンターに。高度成長期は大規模ビルに建て替えられ、1970年代には高層化が進みます。現在はビジネス街に商業施設など多様な機能を導入し、休日もにぎわう街になりました。茅野さんはこう話します。

 「点ではなく面で、長期的な目線で機能更新をしてきたのが大丸有地区です。三菱地所グループは開発するだけでなく、ソフトを含めたエリアマネジメントを行ってきました。大きなビジョンを掲げ、長期的な街づくりに取り組む原動力は先輩たちから受け継がれたものであり、三菱地所のDNAに組み込まれています」  

地球塾の授業風景

 例えば、同地区の地下には総延長28㌔の配管が整備され、「地域冷暖房」システムが運用されています。ビルごとにボイラーなどの熱源設備を設けるのではなく、耐震性に優れた大深度地下で集中管理し、蒸気や冷水を各ビルに送るのです。この取り組みは70年代に始まりました。年間3万㌧の二酸化炭素削減効果があり、東京ディズニーランド60個分の森林が持つ浄化量に相当するといいます。

 隣接する皇居のお堀の水質浄化にも取り組み、15年に大手町のビル再開発に合わせ、地下に浄水装置を設置しました。他にも、ビル屋上に農園をつくったり、オフィス街でハチミツをつくったり、大丸有地区で自然と共生する数々の取り組みを行っているそうです。

 
生徒たちの質問に答える三菱地所の茅野静仁執行役員(右)と、京都造形大の竹村眞一教授

 この地球塾でコーディネーターを務める京都芸術大の竹村眞一教授(文化人類学)は、次のように解説してくれました。

 「皇居は縄文の自然が残る生物多様性の宝庫です。都心の一等地、日本のGDPの5分の1を担うビジネス街が原始の自然と同居しているのが東京の未来性です。家康の江戸開幕は戦国の世を終わらせ、未開の関東平野を豊かな水田地帯に変えるなど、江戸・東京は400年前から日本全国を元気にするハブ(場所)となってきました。参勤交代も全国各地の特産品や情報が行き交う推進力ともなりました。江戸城は明暦の大火(1657年)で焼失しても、戦争のない平和で豊かな世にしたから再建する必要がなかった。現在はその伝統を引き継いで三菱地所がプロデュースしています」

 かつての江戸城の表玄関にトーチタワーが建つ意味について、竹村さんは「僕らの祖先である初期霊長類のサルは、約5000万年前に樹冠という高層エリアで『空中生活』を始めました。枝から枝へ飛び移って、手が器用になり進化につながった。トーチタワーが先駆となって都市の高層化が進むと、ドローン交通や空中回廊などが登場し、空中に都市ができていく。21世紀の樹冠として、人類と地球を進化させる大きなきっかけになるかもしれません」。

 
生徒たちは楽しそうに未来都市構想を発表

 茅野さん、竹村さんの話に続いて生徒たちは、トウキョウトーチが構想する①都市の3D(3次元)化②東京と地方がよりつながっていく③地球自然と共生する都市――の3テーマに分かれてディスカッションしました。未来の街づくり構想についての記事を作成するためです。

 千葉県の中学3年、るいさん(14)はこんな未来都市を想像したそうです。「リニアモーターカーと同じ超伝導磁石を使って、空中に設置した管の中をカプセルに乗って移動します。これで東京と地方をつなげば、移動コスト・時間を削減できます」

 トーチタワーの活用法について、神奈川県厚木市の中学1年、前田千真さん(13)はこんな商売を提案しました。「超高層ビルなので、水蒸気でできている雲から水をつくり、『原材料は雲』として販売すれば、売れるのではないでしょうか」

 ほかにもこんな提案がありました。「地球温暖化のため地上で作れなくなった植物を屋上に植える」「屋上に巣箱を設置し、渡り鳥の休憩場所に」「映画『天空の城ラピュタ』のような空中回廊を造ろう」

 
記事を作成する生徒たち

 今回の地球塾に参加しての感想を聞きました。茨城県守谷市の中学2年、赤井亮太さん(14)は建物などをつくるパソコンゲーム「マインクラフト」を通じて建築に興味を持っていましたが、実際に現場を見て、将来は街づくりに携わる仕事に就きたいと思ったそうです。こう話しました。「22階のフロアから見た景色が新鮮でした。完成途上の進化していく街に立ち会って、高揚感でいっぱいです。特別な1日になりました」

 東京都江東区の深川第二中2年、内山愛梨さん(14)は「高層ビルに光が反射する景色がきれいだった。トウキョウトーチで日本の地方とつながり、全世界の人たちとつながることができる。将来自分がどのような仕事に就くか考えるきっかけになり、視野が広がりました」。内山さんら生徒3人を引率した同中の社会科教諭、池田優子さんは「机上の空論ではなく、社会とつながり、いろいろな刺激を受けることが大事と思って参加しました」と話していました。

【文・沢田石洋史、撮影・松田嘉徳】

TOKYO TORCH
 三菱地所が「日本を明るく、元気にする」をプロジェクトビジョンとして、かつての江戸城の玄関口を日本の玄関口へと生まれ変わらせる大規模再開発。「世界が目指す灯り(トーチ)へ」「人生を輝かす灯りへ」「共につながる灯りへ」との思いを込めて命名。2027年度に完成するトーチタワーは地上63階、地下4階。オフィス、ホテル、ホール、商業施設などが入居する。

コーディネーターの視点

竹村眞一(京都芸術大学教授)

 東京のど真ん中で「高さ390mの落差で流れ落ちる雨水の滝で水力発電をする」というTORCHタワーの未来的な発想に惹かれ、今回の企画を立てた。超高層の屋上庭園は、東京で最も早く紅葉が始まる名所となるかもしれない。

 こうして私たちの都市は3D(三次元)に展開し、桜前線や紅葉前線も垂直に移ろうものとなる。ドローンや空飛ぶクルマの実用化とも相まって、2050年前後の世代は「空中都市」に暮らす新人類へと進化する。

 「日本一の高層ビル」という話題性にとどまらず、都市と私たちの暮らしがどう変わってゆくのか?という新次元の未来像を、その時代に社会の中核となる子どもたちと考えたかった。その期待に違わず彼らは、たとえば「将来の海面上昇への備えとして3Fレベルで移動できる空中回廊を作る」といったアイデアも、都市の3D化の一環として提案してくれた。

 東京は都心に皇居という広大な「原始の森」を残す。そこに棲む天皇は「植林する王」であり「田植えする王」だ。この星にこんな都市、こんな国が存在することの意味を、次世代の彼らにぜひ考えてほしい。そこに隣接する都市の省エネと「脱炭素化」を四半世紀前から先駆し、皇居で採蜜する蜂を屋上で飼う三菱地所の街づくりは、生物多様性の森を抱いた「地球共生都市」の未来を見据えている。日本のGDPの5分の1を稼ぎ出すグローバル企業の集積地「大丸有地区」のグリーン化は、その地球規模の影響力において「地球のOS更新」に貢献するものとなるだろう。

 また3.11震災時にも耐震性の「逃げ込める街」として帰宅困難者のシェルターとなった丸の内の高層ビルは、近未来の激甚震災も視野に「揺れ動く地球」と共生するロールモデルともなる。

 全国交通のハブ・東京駅に相応しく、”日本を明るく照らす希望の灯となりたい”という思いがTORCH(灯火)タワーには込められている。「東京は地方を元気にするハブとなり得る」というコンセプトで、かねてから東北や北海道の風力発電由来の電力を大丸有は「産直」で買い、タワーの建設予定地にも全国の名品とその物語を発信する拠点「アナザージャパン」がすでに開設されている。

 だが思えば江戸期からずっと、この地は「日本をアップグレードするハブ」だった。

 徳川家康は、それまでの西日本(京都・大阪)中心の国家構造にもう一つの「眼」(江戸)を穿った。東京湾に注ぐ暴れ川・利根川を付け替えて江戸を水害から守り、水路を整えて巨大都市の物流(舟運)を支えつつ、その灌漑で関東の未開の沃野を新田開発。その結果、百年で当時のGDP(米の生産高)も人口も倍増ーーもはや領地の奪い合う必要はなくなり「戦国時代」が終結した。

 平和な日本の誕生で、明暦の大火で焼け落ちた江戸城(=城という最大の戦争兵器)も再建されることはなく、いまはARでしかその姿を見ることはない。参勤交代で人とモノと情報が交流し、全国の多様な特産品もこの時代に生まれた。明治以降も新たな近代日本建設のハブとなった東京は、孫文などアジアからの留学生を啓発し、その後のアジア諸国の国家建設につながる「アジアの灯火」(希望の首都)ともなった。

 この400年の伝統ーー日本とアジアを元気にするOSを引き継いでゆくミッションは、新たなTORCH(灯火)のもと新たな世代に引き継がれてゆく。

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