認知症110番

徘徊

≪ケース1≫
 別のところで生活している義父母のことです。舅(85)の徘徊が増え、介護している姑(77) が苦労しています。名札を多数用意して、衣類に付けています。昨日も戻らなかったので、隣人に探してもらったら「よく行く先にいた」そうです。私のところからは片道2時間半かかるので、手助けに余り行けずかわいそうです。=大阪・女性

≪ケース2≫
 九州に住む父母は、2人暮らし。父(84)は昼夜逆転、昼間寝て夜、徘徊。3日間、帰宅しなかったことや交通事故に遇いけがをしたことも。母も痴呆になり、生活が難しくなっています。=神奈川・女性

≪ケース3≫
 同居の父(79)は、なかなか寝つくことができずに、施錠を外し、門扉を壊してでも出ていってしまうのです。主な介護者は母ですが、見かねて手伝うと、こちらも睡眠不足になる。でも在宅介護は続けたい。こつを教えてください。=千葉・男性

【回答】“行きたい気持ち”受け止めて

 ぼけにはいろいろな症状があります。道に迷う、夜間不眠、外出癖などもそうです。ケース1、2、3も徘徊といわれる問題行動ですが、介護者にとってはかなり大変な介護負担になっていることでしょう。

●夕暮れ症候群

 ひとくちに徘徊といっても一様ではありませんが、何十年分の記憶を忘れ過去にタイムスリップしてしまい、夕暮れになると荷物をまとめて、家族に「どうもお世話になりました。それでは家に帰りますので」と他人にあいさつするようにていねいに頭を下げて出かけようとします。ぼけたお年寄りは、記憶が昔に戻って昔の家に住んでいると思いこみ、よその家に遊びに来ているつもりなのです。ですから、夕方になったからそろそろ帰らなければ親が心配すると思っているのでしょう。このように夕方になると「家に帰る」というぼけの方は多く、夕暮れ症候群とも言います。

●泊まる気持ちにさせて

 具体的な対応方法は「せっかくいらっしゃったのですから、どうぞ一晩くらい泊まっていってください」「お茶を入れましたので、どうぞお飲み下さい」などと、泊まる気持ちになるような声かけをします。

 徘徊をするようになると、家族は探し回り、時問がたっても見つからないと近所の方や警察のお世話になることもあります。何回も徘徊が見られるようになると、お年寄りから目を離せなくなり、介護する人は介護負担やストレスで疲れきってしまいます。

●名札付けて

 徘徊は意味もなく歩くといわれていますが、お年寄りは、昔の自分の家が“家”だと思って真剣に探しているのです。ですから、自分の世界で歩き回るわけですから、現実の道に迷い帰れなくなるのです。具体的には衣服の襟の裏側に名札を縫い付けたり、衣服の裏側や靴の内側に名前・電話番号を消えないように書いておいたりします。書いてあれば例え行方不明になっても連絡はきます。

 いつ出て行くか絶えず見張っていると介護者も疲れますが、お年寄りも“見張られている”感じが伝わり、居心地が悪く”なります。その場から逃れようと、昔の自分の家に帰る行動につながり、徘徊となる場合もあります。出て行くような気配がある場合は、それを止めないで“きたい気持ち”を受け止め、近所を散歩したりしてその気持ちを満足できるようにすると落ち着きます。“行かせないように”というのではなく“出たいときはいつでも出られる”と体で感じると徘徊が少なくなる場合もあります。

●介護者に精神的負担

 介護者はかなりの精神的負担ではありますが、ぼけのお年寄りはこのようなこともあるだ、と徘徊を受け入れることが大切です。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学