認知症110番

火の不始末

≪ケース1≫
 同居している息子からの相談。81歳の母は25年前に夫と死別、息子と2人暮らしだが、医者嫌いで行かない。1カ月前から入浴する意欲もなくなってきた。ガスの付けっぱなしが続いているので困っている。ガス栓をひねることもおぼつかない時もあるが、注意してもすぐ忘れてしまう。日中1人なので心配だ。=千葉県・男性

≪ケース2≫
 同居している息子の配偶者からの相談。83歳の姑とは元来性格が合わなかった。69歳頃から痴呆が出現、1人暮らしのため引き取り同居している。たばこを吸っても吸っていない、とうそを言ったりする。息子の吸い殻を灰皿から探す。パートに行きたいが火の不始末が不安で行くこともできず、我慢の限界にきている。=兵庫県・女性

≪ケース3≫
 遠隔地に住む娘からの相談。66歳の母と暮らしていたがうまくいかず別居。母は、よく電話で話しているがつじつまが合わない。ガスのスイッチの入れ方が分からないと言う。教えてもまたかかってくる。遠くて様子が分からないから気になってしまうがどうしたらよいでしょうか。近所の人がよく世話をしてくれています。=静岡県・女性

【回答】介護者の不安大きいが…

 火の不始末は、介護者が危険を感じ、万が一火事にならないとも限らないことを想定すると、何とかしなければと不安に思うのは当然のことですし、予測できる不安に対してなんらかの策をしておかないと一層不安を増してしまうものです。

 本人はその時は本人なりに気を使っているのでしょうが、すぐに目の前のことを忘れてしまうため、お茶を飲もうとしてお湯を沸かすためにガスをつけても、沸くまでに時間がかかるためにその場を離れ、つけたことを忘れてしまうのです。

 介護者はハラハラして、再び起こらないように、あるいは大事にならないようにと思うからこそ注意をすると、自分の能力低下を認めず逆に自己弁護したり、うそをついたりして自分が有利であるようにふるまう。一見分かっているのにわざとそのような行動をしているように見えてしまうからよけいに腹だたしくなるのだと思います。介護者から見たら、言い訳の内容には矛盾があり、本人の人格を疑いたくなり、危険の大きさを思うと介護意欲を喪失させてしまいます。本人はぼけであっても、すべてぼけでわからなくなってしまうのではなく、自分にとって不利なことは認めないという防衛本能なのです。だからと言ってそのままにはできないところに介護の大変さがあります。

●未然に防ぐ手だてを

 ケース1は、ガスのつけ忘れが続いておられ心配とのことですが、浴室のガス釜はタイマー付きなどを使用してはいかがでしょうか。元栓から先にガスが行かないような工夫が必要ですね。ガステーブルは2段階操作式のものや電池式であれば電池を外すと火がつかないものにするのも一つの方法ではないでしょうか。ガス漏れにはガス警報機などの使用なども考えられると思います。とにかく未然に防げるような手だてを考え試行し、その人に合った予防を講じなければなりません。

●吸い殻すぐ捨てて

 ケース2は、たばこの喫煙ですが、たばこが本人の周りにないと忘れてしまう場合が多いようです。息子が禁煙するのは息子のストレスになるでしょうから、息子が喫煙する時に一緒に会話をしながら楽しく喫煙して、吸い殻はすぐに捨てて見えないようにしましょう。喫煙を注意しても嫌な感情だけが残るだけです。隠れて喫煙しないように喫煙する時はそばで見守り、同時に灰皿やごみ箱なども見えない所に置いたり難燃性の敷き物などを使うのもよいと思います。たばこを思い出さないようにする工夫が大切です。

●ガス警報機を

 ケース3は、ガスのつけ方がわからなくなっているようですが、遠くにいるだけに心配ですね。ご近所の方がお世話をしてくれているようですが、それは好意として受けとってよいと思います。ガステーブルやガス釜の点火ばかりでなく、消し忘れが心配だと思います。ガス警報機の設置や電気器具の点検、難燃性の衣服やカーテンなどを勧めたい。災害時の安全確保なども地域でどのようになっているか知っておきましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学