認知症110番

食行動の異常

【ケース1】  老人保健施設を利用している父(82歳)は、食事を全部食べてもおやつをほしがり、置いてあるお菓子を全部食べては吐いてしまう。正月に外泊した時もあられ菓子を枕元に置いて絶えず食べている。片づけようとすると、夜中にトイレに起きた時に食べるのがおいしいという。=大分県・女性

【ケース2】  同居の舅(83歳)は痴呆が進み、日中台所や冷蔵庫を物色しては、なめたり食べる。なのに食べていないという。いつも舅から目が離せず外出もできず、ストレスがたまる。要介護2。=兵庫・女性

【ケース3】  同居している姉(70歳)がアルツハイマーと診断された。要介護4で通所介護・訪問看護・訪問介護を利用。食事はなんとか自分でできるが、どんどん口へ運び口一杯になってはみ出しても、なお口に押し込みます。どうすればよいか=東京・女性

【回答】食事の裏側にはその人の文化が凝縮

 食事は命を保つための基本的行為ですし、生活の中での楽しみの部分でもあります。痴呆のために3度の食事が分からなくなり、規則正しく食べることができなかったりします。これらは、物忘れがひどくなり、空腹感や満腹感をつかさどる中枢神経の異常といわれています。そのために、食べたことを忘れて何度も食事を要求したり、いくら食べても満腹感が得られない状況、食べる行為そのものを忘れてしまうなどが見られます。つまり、食事行為の異常となって現れるのです。現れ方はさまざまです。本能である食べる意欲をなくし拒食になったり、味覚がなくなったり、食べ物の識別ができず異食になったり、食べたいという欲求のコントロールができず過食状態になったりする人は少なくありません。

●おいしく食べるには

 しかし、どんな場合であっても、その人のペースや状態に合わせプライドを傷つけないようにする工夫が大切です。食事は食べればよいというものではなく、おいしく食べるにはどうしたらよいかを考えたい。痴呆性高齢者へのかかわりの基本として、その人の趣味や過去の職業、生活歴を理解することから始めますが、食事も同じです。つい目の前の異常な行為に目がいきがちですが、食事の裏側にはその人の文化が凝縮されています。会話などにも配慮しながらかかわりましょう。  ケース1、2は、満腹中枢が正常な働きができず、十分食べたという指令がうまくいかないのだと思います。歯止めがきかないのでしょうね。なるべく食べることから気をそらすようにしてはいかがでしょうか。

 ケース1の場合、老人保健施設を利用中ということなので、施設の中で行われている趣味活動等に参加したり、他の利用者との交流等で生活にリズムを持っていただいたり、施設の日課などに合わせた行動である程度規則正しい習慣を身につけるようにするとよいと思います。自然に習慣化してから退所の方向へいきたいですね。

 ケース2では、何もすることがないと意識が食事に向いてしまうので、簡単な役割を見つけて手伝ってもらったり、昔の話をしたりして食事への関心を薄くできるような働きかけはできないでしょうか。屋内ばかりでなく外に出る機会を作るのもよいでしょう。また、台所で食べているところを見かけたときは「何を食べているの」という声かけよりも「何を探しているの」と気分が他に変更できる声かけをしましょう。また、見える範囲には野菜やカロリーの少ないお菓子を置き、食べてもカロリーオーバーにならないように注意したり、ゆったりとした雰囲気で気分を落ち着かせることも大切です。

●食事量のチェックも

 ケース3は、口に詰めこんだ食べ物がのどに詰まったりしなければ、自分で食べる行為を止めなくてもよいと思います。食べているように見えても、口からこぼれて実際は食べている量が少ない場合もありますので食事量のチェックが必要です。食べる前にお茶や汁物でのどを潤してから食べるようにしたり、声かけしながらゆっくり食事を楽しむ雰囲気つくりをするのもよいと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学