認知症110番

不潔行為

【ケース1】  私たち夫婦と同居の姑(88)は、軟らかい便が少しずつ出るのでオムツに手をいれては、そこら中に便を塗りたくります。入浴サービスでは、毎回浴槽に便をしてしまうので、利用をやめています。言葉の暴力もひどいので、精神的にも疲れました。=山梨・女性

【ケース2】  父(70)は母と2人暮らしです。仕事を辞めてから家の中に閉じこもるようになり、ゴロゴロしています。最近では、入浴をしない、歯も磨かない、身なりにも構わない、すべてが億劫になってしまいました。忘れっぽく、人の話も理解できない状態です。=新潟・女性

【ケース3】  一緒に暮らしている姑(97)は、汚れたオムツを洋服ダンスにしまい込んでいたり、ごみ箱や家の柱など、ところかまわず放尿して、ほとほと困っています。老健施設や特養老人ホームを10カ所程回りましたが、痴呆がひどいからと受け入れを拒否され、困っています。=岡山・女性

【回答】持ち上げるような声かけを

 清潔にして生活すればどれぼど気分がよいかと思うのは、介護者や周りにいる人の考えですが、本人はどうなのでしょうか。いままでならば、きちんとした身なりをしていたのに身の回りへの関心がなくなるばかりか、便をさわったり、汚れた下着を隠してしまったりするようになると、介護者はだれでもショックを受けます。外面的な装いが内面的な荒廃を表しているのではないかと思えてくるのだと思います。

 特に痴呆の初期の頃は、周りのことに関心がなくなり、体を動かすことも億劫になることが見られる場合があります。このようなときは、簡単にできることを頼んで役割を感じてもらったり、散歩や買い物に連れ出し自然に着替えなどをするような場面を作ることも一つの方法です。声かけは「この色がとてもよく似合うわよ」「きりっとしていてすてきよ」などと肯定するようにしましょう。忙しいと「そんなかっこうではみっともないわよ」「ちぐはぐになってるからきちんと着てよ」などと言いそうですが禁句です。認知能力や感覚機能が低下していることを理解し、否定的な言葉ではなく少し持ち上げるような声かけを工夫してみましょう。そんなゆとりはないと言われるかもしれませんが、効果がないように見えても、あきらめずに身の回りのことから声かけを続けることが大切です。

●病気は

 ケース1は、下痢便なのでしょうか。腸などに病気がないのか、細菌に対する抵抗力が弱っていないか、医師にかかっているのでしょうか。異常がないようならば、食べ過ぎや飲み過ぎの傾向がないか、見えない所で食べ物以外の物を口に入れていないか、たとえば部屋の中にある飾り物や花などを食べていないか、歯の噛み合わせが悪く咀嚼力が低下していないかなどを注意して見てください。便を塗りたくるのは便がお尻についていると気持ちが悪く、それを取り除こうとしておむつに手を入れる、当然指に便がつきますが、それが汚いものだとは認識できずぬぐおうとしてそこら中にこすりつけてしまうのです。便が出ているようであれば、大変でしょうが捨ててもよい古い布などを小さく切って用意しておいて、お湯でぬらしてお尻をぬぐい気持ちよい状態になるよう心がけましょう。入浴サービスですが、最後に入れてもらうようにはできないでしょうか。

●生活にリズムを

 ケース2は、前述のように身近なことから、動くように働きかけて気分転換できるよう工夫し、生活にリズムをつけ、小さなことから役割を作ってみられてはどうでしょうか。

 ケース3は、汚れたおむつを隠し始める原因の多くには、汚れ物を人に知られたくない、おむつを片付けるとき「くさい」「きたない」などと言われ傷ついたなどがあります。怒られると、なんで怒られたかは忘れても、怒られた嫌な体験だけが記憶に残り、ますます隠すようになります。認識能力の低下でトイレの場所の区別がつかないので、トイレの場所がわかる工夫やおむつを敷いて様子をみては。痴呆専門のデイサービスや施設がありますので、あきらめずに近くの在宅介護支援センターなどに相談してください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学