認知症110番

受診

 同居している義母(74歳)のことですが、物忘れが頻回になり家族は困っています。日常的なことでは、「財布がない」「通帳がない」などはしょっちゅうです。先日俳句の会に行って、友人と分かれて電車に乗るのを間違えたのか、いつもは16時ごろ帰ってくるのに22時に帰ってきました。疲れた様子でそのまま寝てしまいましたが、友人から翌日「最近句会にきてもボーとしていることが多いけど、どうかしたのかしら」と電話がありました。気になって様子を見ていると、普通の時もあるし、部屋の中で探し物をしている時もあります。が、元々おしゃれだったのに、時々ちぐはぐな重ね着をしているので、ぼけがでてきたのではと思い、夫と相談して病院に連れて行こうとしたら「私はどこも悪くありません」と拒否されてしまいました。兄弟も病院で診てもらったらと義母を説得するがだめです。義母の姉にも協力してもらいましたが「みんなで私を病人に仕立ててどうする気か」と怒らせてしまうだけでした。身体は健康でこれといった病気はないので、病院に行くことには慣れていません。=岩手県・女性(45歳)

【回答】うそのような理由でも感情に訴え納得促す

 子どもたちの心配が理解されない状態なのでしょうね。良かれと思っているのによけいにぎくしゃくしてしまいましたね。もう一度考えてみましょう。

 まず、本人は自分は歩けるし食べられるし、その他どこも悪いとは感じていません。それなのに、なぜか周りでは、「病院に行って診てもらえ」といっても不本意だと思います。確かに周りは迷惑かもしれませんが、本人は自分の物忘れが周りに迷惑をかけているなどとは思ってもいないのですから、受診を勧められても納得するはずはありません。それどころか、勧められれば勧められるほど違和感を感じます。行く理由が分からないのですから、当然本人の中では混乱状態なのだと思います。あまり強い口調で言われると、感情だけが残りますので、うつ的症状や問題行動が出てくることもあります。子どもたちが心配するのは分かりますが、無理に勧めることは決してよいことではありません。

 ではどうすればよいのでしょうか。分かるように説得すればよいのでしょうか。言葉を選んで、冷静に、客観的に、理論的に正しいことを説明して説得するとどうでしょうか。物忘れが周りに迷惑をかけていることが自覚されてないのですから、いくら理論的に説明しても、言っている言葉の意味を理解することが低下してきているわけですから、言葉が耳に聞こえてはいるものの、平面的な言葉だけで言葉の意味は理解できません。分かるようにということで「物忘れがひどく、ぼけたのかもしれないから」と言ってしまうと、思ってもないことを唐突に言われ、自信をなくしたり、落胆させる結果になってしまいます。

 ぼけの方には、本人の情緒面や感情面で納得できるよう場面を作ることが大切です。理屈は理解できなくても感情面は豊かなのです。ですから、周りの者としては、“うそ”をつくようで抵抗があるかもしれませんが、健康だと思っている本人を認めた上で、「年を取ってくると健康が何よりだから、健康診断が必要ですよ」と、本人の健康を心配していることを感情に訴えたり、「役所から、70歳以上の人は健康指導がある」などと、公的なところから通知がきていること、あるいは、「介護者が病気かもしれないのでついてきてほしい」などと頼りにするのもよいと思います。いつでも本人のことを思っていることが基本です。思っているから心配もし、いつまでも健康でいることを願っていることが分かるように感情に訴えることで、本人が納得できるようにします。

 そうはいってもと思われるかもしれませんが、本人が言われたことで納得できるようにし、本人自身が混乱しないようにすることが大切です。病院に行くことで、適切な治療や対応ができることが必要なことですから、広い視点に立ってみて、本人の健康や生活が豊かになることにつながることが基本です。

 うそのような理由であっても、本人が混乱しないで満足できるように対応することによって、本来の目的である受診が可能にならないと意味がありません。それはいわゆるうそをつくのとは違うのです。本人の安定のための技法として活用するのだと考えてください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学