認知症110番

きたない

 ぼけの母(76歳)を1 年前に引き取り同居しています。家族は夫(51歳)、娘(17歳)、息子(14歳)の5人家族です。同居する前の母は、父と2人で暮らしていましたが父が他界してからは1人で暮らしていました。が、急にぼけ症状が見られ一人暮らしは無理なので引き取りました。母が元気な頃は、子どもたちを連れて夏休みやお正月に帰省していました。子どもたちはその時の母のイメージがあるためか、ぼけてチグハグ言動を嫌っています。一緒にご飯を食べていても、自分のおかずが目の前にあるのに、食べている箸で子どものお皿のおかずを食べたり、入れ歯を出して湯のみに入れたりします。トイレのカバーをおしっこで濡らしたり、お風呂の湯船に髪の毛やせっけんかすが浮いていたりして、「きたない」と言って敬遠、「これでは友人も連れてこられない」とぶつぶつ言います。夫も仕事が忙しいと帰りが遅くなったように思います。最近、なんとなく家族の不協和音が感じられます。疲れが溜まりイライラしています。=神奈川県、47歳(女性)

【回答】おばあちゃんも苦しい 分かれば対応変わる

まず受診し子どもに「病気」と理解させて

 やさしかったおばあちゃんの変貌に驚いているのでしょうね。とくに「きたない」と嫌がる年齢ですね。友人とのお付き合いもいろいろあるのに、おばあちゃんの言動は友人にもかっこ悪く感じられるのでしょうね。そう思っている子どもたちに、どのように分かってってもらうかですね。

 病院で受診されたのでしょうか。されていないのであれば是非受診をお勧めいたします。診断を受けていれば、その結果を家族に伝え、どのように対応すれば良いのかを話し合うことができると思います。まずは病気であることを理解してもらうことからはじめてはいかがですか。

 診断を受けていなくても痴呆性老人について知ってもらいましょう。「ぼけたら何もわからなくて楽だわ」と口にすることがありますが、そうでしょうか。お元気なころに他人のお皿に箸をつけたでしょうか、お風呂はどうでしたか。今はそのようなことの判断ができない状態なのです。お母さんは、娘の家にいることすらはっきりとしていないときがあるのではないでしょうか。そう思うと、不安と緊張の連続の中で日々過ごしているとも考えられます。かわいい孫のことも認識できていないで、知らない人と一緒にいる感覚かもしれません。

 そう思うとどうでしょうか。戸惑いや不安、緊張があってどうしてよいか分からない状態だと思います。お子さんたち、自分がそのような状態に置かれたらどう感じるかを聞いてみてください。目の前のチグハグな言動は以上のような状態から出る行動であることを分かってもらうと、「きたない」とは言えなくなるのではないでしょうか。おばあさんの苦しさや辛さがわかれば、自分たちがどのように対応すればよいかを、口で言わなくても少しづつ理解してくれると思います。だからといって、我慢を強いることはストレスになるでしょうから、家族で話し合い、お互いの負担を考えてサービスを利用してはいかがでしょうか。

 家族で抱え込むのではなくて、家族のそれぞれが自分らしく生活ができるようにしていくことが大切ですし、介護を長続きさせるコツでもあります。介護者は、(1)自分の時間をつくりましょう。一日全部を介護に当てると長続きどころかダウンしてしまいます。在宅サービスを適切に利用して自分の時間や休みの日をつくりましょう。一人で介護を担うのではなく、家族を巻き込んで上手に手を抜いてください。(2)自分らしさを失わない。仕事や趣味を持っていればそのまま続けるようにしましょう。家族も介護で疲れている姿を見るのは辛いことですし、お母さんにも優しく接することはできません。(3)気軽に愚痴を言いましょう。愚痴を言うのはみっともないと考えずに、ときには溜め込まないで、夫や子ども、兄弟、友人、ケアマネジャーに言って気分を楽にしましょう。良い娘、良い妻、良い母親の枠をゆるやかにしてみてはどうでしょうか。

 以上のことを考えて、少し肩の荷をおろしてください。完璧を望まないでおおらかな気持ちでお母さんの気持ちを汲みながら、子どもたちにも接してください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学