認知症110番

認知症の初期

 妻(67歳)のことですが、2年前に仕事を辞めてから少しずつ物忘れが目立ってきました。たとえば、電話に出ているとき、受け答えをしているのですが、少し経つとその内容を忘れてしまうので、困ってしまいます。電話に出ながらメモするものを探している様子なのですが、側にないのでそのまま話して忘れてしまいます。私と2人暮らしですが、家での生活にはそれほど影響はないのですが、時々自分自身でもイライラしています。友人との待ち合わせの時間や場所を間違えたりしたことが数回あり、最近では友人と出かけることも少なくなり、このままでは認知症がどんどん進んでしまうのではないかと心配しています。

 が、時には以前のように話が弾み「これなら心配ないな」と思うこともあります。かかりつけ医からは痴呆の初期と言われています。家事は今まで通りしていますが、同じ献立が続くこともあります。ガスの消し忘れは私が気をつけています。このままの状態を保つにはどうしたら良いでしょうかか。=新潟県・男性(71歳)

【回答】声に出し毎日同じ時間に同じ行動を

生活リズムを崩さずに

 認知症の初期と診断され、貴方がこまやかな配慮をされておられるので安定した生活が送れているのだと思います。まだ初期ということですから、時折生活の中で戸惑われる状態だと思います。生活の中で自信を失わないようにすることが大切です。

 実際には、日々の生活のリズムを崩さないことです。なんとなく続いているように見える生活も、時計、カレンダー、テレビ、新聞などから現在の時間や曜日を情報として得ているのではないでしょうか。つまり、意識しないで得ている情報ですが、この情報を生活の中に意識的に取り入れてみましょう。

 起床、就寝、食事時間などを一定にしておいて、一日の予定を決めておき、「○○時だから、食事にしよう」などと意図的に時間を声に出してから行動しましょう。日によって時間を変えないことが大切です。毎日同じ時間に同じ行動をすることで一日の流れを作っていきます。なんらかの事情で時間を変えるときは、その事情を説明してあげて下さい。まだまだ初期では理解できます。何も説明なしで変更してしまうと、混乱の基になってしまいます。時間を確かめる時計は、いつも正しい時間に合わせておきます。家にはいくつもの時計があるでしょうが、妻が見る時計はどれも正しい時間にしておきましょう。些細なことのようですが大切なことです。

 今日が何日なのかがすぐわかるように日めくりのカレンダーなどを使い、自分でめくることでわかるようにしたり、目に付く所に予定がわかるようにしておく工夫も良いと思います。たとえば、ホワイトボードなどを用意し、日常生活の中でのことで、起床、就寝、食事、入浴、買い物、散歩などの予定を書いておいて常に自分が何をしているのか、今、何時なのかを気にするだけでも生活のリズムになります。予定は書きっぱなしにしないで、妻と一緒に話し合いながら書き、済んだら消すことを繰り返し行って習慣化するようにしましょう。

 夫が出かける時は、行き先と帰宅時間を書いておき、携帯電話を持って行くのであれば携帯電話の番号、行き先の電話番号を書いておき、1人になっても不安でないように連絡が取れる体制を整えておきましょう。同様に家族や親しい人の顔写真に名前を書いて張っておいたり、いつも見られるようにアルバムにも名前を入れて手もとに置いておくと、自然に思い出す手がかりにもなります。

 電話の側には、メモ用紙と筆記用具を置いて、電話を受けたら必ずメモを取るように習慣づけることを勧めます。忘れてしまうことがあるでしょうが、決して責めないでゆったりした気持ちで見守るようにしましょう。また、デイサービスなどを利用して他者との交流を通して良い刺激を受けることも大切です。一緒に出かけ会話をしながら買い物などをすれば、どんなことを忘れてしまうのかを観察する機会にもなります。なによりも2人で会話を楽しめることが安心につながると思います。

 1人で抱え込まないで、状態によってはサービスを活用できるように、地域での情報にも耳を傾けておきましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学