認知症110番

施設

 50歳の夫のことですが、病院や老人保健施設を転々した後介護老人福祉施設に入所しています。42歳で髄膜炎になり、その後脳梗塞で痴呆症状が顕著にみられます。休みの日は面会にいくように心がけているのですが、施設に行くと夫は「ここは年寄りばかりで嫌だ、家に帰る」と大声で怒鳴ります。職員からは「帰宅願望が強いので困っている」「なんで、おれをこんな年寄りの中においておくのだと大声で言うので、他の利用者が迷惑がっている」と言われます。  家に帰りたい気持ちは分かっていても、2 人の子どもを抱え働いているので、家に引き取ることはできません。面会に行っても、なんとなく心苦しくて、帰り道は情けなくなってしまいます。自然に足が遠のいてしまうのですが、これから先を考えると、どうしたらよいのか考えこんでしまいます。=東京都・妻(47歳)

【回答】父親、夫、男性としての役割ができる工夫を

施設に対し、要望も

 複雑な気持ちよくわかります。夫のことを心配する気持ちは大切ですが、何よりも自分の気持ちが穏やかにいられることが大切です。自分でできる範囲は限られています。あなたでしかできないことをすればいいのです。感情は複雑で不安なこともあるでしょうが、割り切ることも必要です。

 現在は施設を利用しているのですから、まずは施設での生活が快適にできるように考えてみましょう。施設の生活は集団ですが個別を大切に考えてサービスを提供するようになっています。利用している側からは、施設の対応方法に要望を出すのは言いにくいかもしれませんが、要望を言うことで夫が安定した生活ができるきっかけになるのですから、気軽に相談しましょう。

 年齢を考えれば、夫が言っていることはもっともなことだと思います。一般的な生活を考えてみれば、50歳の男性であれば、一家のために働いている、子どもの父親、妻にとっては夫として、男性として生きているのが普通ではないですか。痴呆症状があっても、施設で暮らしていても、人間として生きていることには変りはありません。そこから考えられることは、当たり前の普通の生活を望むことは自然なことです。特別な配慮は必要ですが、痴呆があるからといって特別な生活があるとは考えられません。また、24時間の生活の中でいつでも痴呆症状があるのではありませんよね。普通の生活に視点を当てて考えると、父親として、夫として、男性としての存在、役割ができるような工夫が必要なのではないでしょうか。

 施設で介護されるだけの存在ではなく、施設で生活していても、家族の参加を得て、子どもに面会をしてもらい、父親として子どもとの交流、子どもはその姿から父親の存在を、妻も時間を作り側に寄り添って、ちぐはぐなことを言うでしょうが思い出や今後のことを話しかけたり、家に連れて帰るのは無理であっても、施設の近くのレストランに連れ出してともに過ごす時間を作ってはいかがでしょうか。安定しているのであれば、泊まらなくても家に連れていってほんの少しの時間を家で過ごすのも考えてはいかがでしょうか。工夫をして妻と夫、家族と一緒に過ごす時間を作り、穏やかな気持ちになることを体験できるようにしましょう。他者から援助されるだけの生活では、息苦しくなってしまうと思います。そのことをじょうずに言葉で伝えることができないから、大声を出したりするのではないでしょうか。どうすれば、施設の中で楽しく過ごせるか、生きている存在感を実感できるかを見つけて試みてみましょう。

とがめず見守って

 しかし、無理をしてはいけません。よかれと思ってしても、必ず善い結果になるとは限りません。様子を見ながら、できそうなことを施設に提案してみましょう。施設の職員も考えていると思いますが、安全面から、なかなか新しい試みができない場合もあります。家族の写真などをベッドの周りに飾っておくのもよいと思います。いまは、気軽に訪問し、夫の行動をとがめずに見守って一緒にお茶でも飲み、夫の笑顔に触れてください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学