認知症110番

同じ物を買う義母

 3年前から同居している義父は72歳、義母は71歳。義母のことで教えてください。毎日買い物に行き、同じ品物を買ってくるのです。卵は、冷蔵庫に入りきれません。料理に使っても、次々に買ってくるので困っています。家族だけでは食べきれずに近所の人にもあげます。それでも余ります。彼女が買い物に出かける時に、「卵はたくさんある。今日は買わないで」と言うと、「わかったわ、いらないのね」と答えるのですが買ってきます。お菓子も同じものを毎日のように買ってきます。「たまには、違うものを買ったら」と言うと、「自分のお金で買ってくるんだから、人の指図は受けない」と怒ってしまいました。夫や義父は「いいかげんにしたら」というだけです。痴呆もこのくらいなら、とも思いますが、エスカレートしていきそうです。良い対応方法はないでしょうか。在宅サービスは、利用していません。(愛知県・嫁・40歳)

【回答】店に事情話し協力仰ぐ

 彼女はまだまだ軽度ですが、一緒に暮らしていると気になりますよね。夫や義父は、自分たちが困らないので、それほど気にならないのだと思います。

 同じ物を買わないように促しても、買ったことを忘れてしまうから、同じ物を買うのです。ですから「買わないで」と言っても、自分の行動を忘れているのですから、「なんで、買うことがいけないのか、不愉快だ」としか思えないのです。自分のしている行動について、否定されたことだけを感じてしまい、自分では、同じ品物を買っているつもりはないのです。しかも、ていねいに分かるように説明すればするほど、嫌な感情だけが残ってしまいます。自分の行動は消えているのです。

 家族が喜ぶからと思って買っているのかもしれません。あるいは、主婦だった時を思い出して、夫や子どもたちの好きなメニューを考えながら買っているのかもしれません。しかし、その時だけであって、行動そのものは忘れてしまうのです。だからといって、同じ物がたくさんあるのは困りますよね。

 買い物に1人で行くくらいですから、他人から見るとぼけているようには見えないのだと思いますが、いつも同じお店で買っているのでしたら、その店の人に事情を話してはいかがでしょうか。他人にぼけていることを言いたくないという気持ちもあると思いますが、これからはぼけの人が増える一方です。自分だけで抱え込まないで、地域で見守ることが大切ですし、地域で支援できる体制を考える機会にもなります。また、地域で住みやすいシステムづくりをしていく必要があるのです。最近では、痴呆高齢者に対しての理解も浸透してきていますので協力してくれると思います。

 方法としては、従来通りに本人に品物を渡してもらい、後で家族が返却する。あるいは「壊れやすいので、あとでお宅に届けますよ」と店の人に、本人が納得するような言葉がけをしてもらい、買った気分になってもらうなどはいかがでしょう。時には一緒に買い物に行き、「冷蔵庫にあったわね」とやんわりいいながら、他の商品に目を向けてもらうなども良いと思いますが、一緒に行くことでストレスになってしまっては逆効果になってしまいますので、表情などを見ながら判断して下さい。

 日々どのように過ごされておられるのでしょうか。買い物が日課になっているようですが、家での役割は決まっているのでしょうか。ささいなことでも役割があると緊張感が伴うとともに自分の存在感が実感されると思います。何もすることがないと何かしなければと思うが、何をしてよいかわからないため習慣で、買い物という形になっているのではないでしょうか。

 デイサービスなどを利用して、他の利用者と会話をしたり趣味活動等をすることで、買い物から避けることにもなると思います。日々の生活で充実感や存在感を味わうことが、生活の安定につながります。

 家で過ごすことも良いですが、外の人との交流を考えてみましょう。介護者も同じような立場の介護者と話し合うことで、対応のヒントが得られると思います。本人を取り巻く人たちの生活を快適にすることが、本人の安定につながります。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学