認知症110番

父と孫の間で‥‥

 83歳の父、私たち夫婦、長男夫婦、3歳と1歳の孫の7人家族です。父にぼけの症状が徐々にでてきました。今日が何日であるとか曜日は分からないようですが、デイサービスに行く日は分かります。とても困っていることがあります。お菓子が大好きで、孫が食べようとテーブルに置いていたお菓子まで食べてしまうことが度々あります。そんな時、上の孫は「ばーか」と言うのでこのままではいけないと考え、皆で外食に行き父と孫の仲を緩和しようと試みました。しかし、父はそこでも孫のデザートを食べてしまい、孫が泣き出してしまいました。このままでは、家の中の雰囲気も悪くなりそうなので、食事の時間をずらすようにしました。孫たちが食事をする時は、父にお茶をいれてお菓子を食べてもらうようにしていますが、なんとなく気まずいのです。どうすれば穏やかな生活になれるでしょうか。(東京、娘、53歳)

【回答】座る位置やデザートを出すタイミングなど工夫を

 家の中の雰囲気を良くしたいと思う気持ちは、よく分かります。ぼけ症状による大きな問題行動であれば、ぼけていることが他の人にも分かり、その行動に納得できることが多いのですが、一見普通に見えるから困るのですよね。それも、孫のお菓子を食べてしまうのですから、あなたの立場としては穏やかではいられませんね。

 3歳のお孫さんに、ぼけのことを理解してもらおうと思っても難しいでしょうから、周りにいる人たちがその場その場で対応せざるを得ないと思います。お孫さんを守ろうとして、お父様のことを“また孫のお菓子を食べてしまうのではないか”という気持ちが先にたち監視するような気持ちに知らず知らずになっていませんか。たとえ話す言葉は優しくとも、お父様は監視されているという雰囲気を感じているのではないでしょうか。

 お父様だって、曽孫のお菓子を食べたなどとは思っていません。目の届く範囲にお菓子があるから食べたくなるだけです。同時に食べ始めたとしても、自分の分を早くに食べてしまえばお菓子は自分の目の前からはなくなってしまうのですから、当然曽孫のお菓子がおいしそうに見えるのです。

 また、お孫さんの立場で考えてみると、例えばいくつかお菓子のうち最後に食べようと残しておいた一番好きなお菓子を食べられてしまったら、悔しくてあなたのお父様を責める気持ちになるのも当然です。 双方の気持ちを考えると、それぞれの理由があります。食べてしまうお父様が悪いのではありませんし、お孫さんが悪いわけでもありません。

 皆で一緒に食べる時には、お父様が話しかけに答えられるような話題を選んで周りの人もその話に反応を示しながら、孫の食べ具合を観察し双方が嫌な思いをしないようにしてはいかがでしょうか。レストランでの食事では、お孫さんにはデザートも他の食べ物と一緒に持ってくるように、また、お父様にはデザートは食後に持ってくるように注文するなどの工夫も必要ではないでしょうか。

 日々の食事を時間差で食べるのもたまには良いでしょうが、家庭全体の雰囲気を考えると、良いとはいえない状態だと思います。座る位置やデザートを出すタイミングなどを考えてはいかがでしょうか。食事中、お父様にはゆっくり噛んで食べるように声かけをしたり、会話を楽しめる話題を持ち出したりして様子を見ましょう。お孫さんもだんだん成長していくと共に、ぼけの症状を少しずつ理解できるようになるのではないでしょうか。

 あなたが家族にいろいろ配慮しているから、大きなトラブルもなく全員が暮らせているのだと思います。あなた自身の心身の健康が何よりも大切です。時には、お父様から離れて気分転換を図ったり、自分の好きなことに時間を使いましょう。

 在宅サービスは利用していますか、利用していないようでしたら、近くの居宅介護支援事業所に相談してみましょう。認知症に関する相談を医師にしていますか。今は上手に対応しているのでそれほど困っていないようですが、お父様を専門の医師に受診させ、アドバイスを受けることもよいと思います。

 お父様のぼけ症状に対して家族が穏やかに接し感情を害さないようにしているようなので、比較的安定した日々を過ごせていることと思います。そのことをどうぞ誇りに思ってください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学