認知症110番

実家の両親

 実家の父(86歳)と母(85歳)は、車で2時間のところに2人で生活しています。月に1、2回訪ねます。普通に暮らしているように見えますが、よくみると掃除は不完全でほこりだらけです。受け答えはできるのですが、行動が伴っていないように感じます。母は物忘れがひどく、父がタクシーで買い物に行きますが冷蔵庫には同じ食品がたくさん入っています。掘りごたつを使っていますが、手の届く範囲に物を置き整理されてはいません。先日、掃除のついでに押し入れを「片付けようか」というと「いい、今度片付けるから」と答えるのですが気になったので片付け始めました。古くなった食べ物や、プレゼントした衣類、手紙、紙袋などが積み上げられていました。ゴキブリの死骸やふんがたくさん出てきましたが、両親は驚きもしないので、唖然としてしまい何とかしなければと思っているのですが。(福島県、娘、58歳)

【回答】老親の意思を尊重しながら現実と照らし合わせて

 なんとなく変だなと気づいていても、そのことを現実のものとして知り驚いてしまったと思います。表面的に見ると、それなりに生活ができているように見えるのですが、細部をみていくと、生活ができていると判断してよいか迷うところだと思います。

 ご両親が長い時間をかけて築いてきた生活です。いろいろなことが自然に身についているから、お母様も物忘れがひどくても、日常生活は困らないで継続しているのでしょう。急に時間が経ったわけではありませんから、徐々にゆるやかに心身が衰え、それに応じた動きや暮らし方を自分たちで工夫しながら日々過ごしておられるのでしょう。

 あなたもその自然さを受け止めてこられたのでしょう。何気なく受け止めていた現実を客観的に見たとき、「少し変だな」と感じていながらも、目の前では生活が滞りなく継続されているので、「まだだいじょうぶかな、そのうちに何とかしなければ」と思案しているうちに、何かをきっかけに「ちょっと待てよ、何かが変だな」と現実のこととして気づき、このままにしておくことは危険ではないかと急に不安になったのではないでしょうか。そうはいっても具体的にどうすればよいのか、ご両親の気持ちを考えると簡単には答えが出ないで不安になったのではないでしょうか。

 このようなことは、身内であればよくあることです。特に親と離れて生活していると親のことを客観的にみることはなかなかできないものです。一緒に生活していれば些細なことも見えますが、ちょっとした時間だけ親の生活を見ているだけでは見えません。どんなに年老いた親だって子どもの前では、親としてしゃきっとします。言葉だけのコミュニケーションでは普通に暮らしているように思えてしまうのです。

 お二人とも高齢でもありますので、この機会にこれからどうしたいのかを聞くことがよいでしょう。老親の意思を尊重しながらも現実と照らし合わせた話し合いを持つことはいかがでしょうか。子どもとして、年老いた親を客観的な目で見ることは辛い気分にもなりますが、安全に安心して生活が継続していくための手段として、今後どのように暮らしていけば、両親らしく生活が継続していけるのかの情報を集めて、いろいろな暮らし方があることを提案しながら一緒に考えていってはいかがでしょうか。

 まず、お二人の健康状態を把握しましょう。お母様は物忘れが進んでいるようなので専門医の受診をして適切な対応をしましょう。物忘れが日々の生活のどのような場面で支障になっているのかを知ることも大切です。二人だけで過ごしていると、人との交流も少なく緊張感もなくなってしまいます。リズムある生活とバランスのよい食生活が必要だと思います。

 家の中を安全に動きやすくすることで転倒予防にもなります。手元にいろいろ生活用品を置くことは便利でもありますが、日常生活のなかで動く機会を作って自然に体を動かすようにしておく工夫をしましょう。また、在宅サービスもいろいろありますので活用してはいかがでしょうか。病気になることも想定して、一人になった場合の暮らし方や連絡方法なども決めておくと、双方が安心できるのではないでしょうか。いずれは自分にも訪れる老いですから、ご両親との話し合いは勉強の機会だと思ってかかわるとよいと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学