認知症110番

ストレス解消法

 一人暮らしの母(87歳)と私たち夫婦が同居して2年、私も夫も定年で仕事を辞めて家にいます。夫の両親が車で1時間ほどの所に住んでいるので、夫は週3、4回、私は1回程度訪ねます。さて、私の母のことです。物忘れがひどいですが、そばで声をかければ何とか生活ができます。寝たり、起きたり、テレビを見たりの気ままな生活で、その言動は、問題行動というほどではないのですが気になり、ついつい注意してしまいます。最近ではおどおどした態度が見られ、もっとやさしく声をかけようと思いながらも顔を見るとあれこれ言ってしまいます。それなのに、買い物に行くといつの間にか母の好物を買っています。でも、家に戻るとまた、一つ一つの行動が気になり注意してしまいます。受け入れなければいけないということは頭で分かっているのですが、できない自分にストレスを感じています。(茨城県、娘、64歳)

【回答】情報交換や制度活用し自分にあった方法を

 お母様に対しての娘さんの気持ちよく分かります。頭では理解していて、今度は優しく声をかけてあげようと思って家に帰ってくると、日ごろしている簡単なことなのにチグハグな行動をしているのが目の前に見えると、帰宅前の思いが一気に崩れていつものように注意してしまう自分に嫌気がさしてしまうのですよね。

 お母様に、物心ついたころからきちんとしつけをされ育たてられた、そのときのお母様の姿は今でも鮮明に焼きついていることと思います。その母親といま目の前でおどおどしている母親が重なってしまい、その落差に、子供として切ない気持ちがあるのだと思います。頭では、年齢相応のお母様であり少し認知症が出てきている状態であることを十分理解しているつもりでも、なかなか現実の姿を受け入れられないのは当然のことです。決してあなたが冷たいのではありません。だからこそ、少し距離を持ったり、他者に援助を求めることも必要なのです。自分で抱え込んでしまうと共倒れになってしまいます。介護保険制度を利用し、例えばデイサービスなどに出かけてもらったりして、少しお母様と離れて自分だけの時間を持つこともよいと思います。

 また、声をかけるときは深呼吸をして自分の気持ちを整え、一動作ずつ声をかけましょう。例えば洋服を着るときなどは、「着替えはここに置いてあるから着てね」では、順番が分からなくなってしまいますので、一つの動作に対して「このシャツを着てね」、着たころを見計らって次に「これを着たら」と具体的に分かるように話すと混乱しないと思います。日常の些細なことができないと、お母様も自信を失くされてしまいますので、自信やプライドを傷つけないように、自分でできるように声をかけていくことが大切です。

 声をかける方は、「こんなことが」と思わないで、ゆっくりと声をかけましょう。つい、同時にいろいろなことを言いがちですが、それらを同時に理解することは無理なので、ていねいに一つ一つのことを言うことで双方が気持ちよく過ごすことができると思います。しかし、日々の生活の中で実行することは簡単なようで、なかなかできないものでもあります。できないからダメだと思わないで、「また言ってしまったわ、次から気をつけよう」と自分に言い聞かせながら気楽に声かけをしましょう。

 また、「○○して」と指示的な言い方になりがちですが、「○○はどうかしら」とお母様のほうも自分の気持ちを言えるような問いかけをし、ゆっくり反応を待つようにしましょう。なんでもないようですが、“お母様の気持ちを聞きますよ、どうぞ受け入れますよ、何でも言ってくださいね”という気持ちが伝わると思います。

 声のトーンも大切です。聞こえにくいからと大きな声で話すと、いかにも注意されているようにとられてしまいますので配慮しましょう。近くで顔を見ながら声をかけることも心がけましょう。

 そうはいっても、一緒に生活をしていると、ストレスは増大するばかりです。自分の気持ちを誰かに聞いてもらうこともよいと思います。そんな時は、電話相談を利用したり地域のぼけ老人を抱える家族の会などを活用して情報交換などをするのもよいと思います。自分にあったストレス解消法を見つけて下さい。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学