認知症110番

高齢姉妹の2人暮らし

 私は3歳上の姉(83歳)と2人で暮らしています。子どものいない姉は10年前に夫を亡くし、独り暮らしをしていました。一方、私は独身で仕事を70歳まで続け、仕事をやめると同時に、姉と同居したのです。最近の姉は物忘れがひどくなり、貯金通帳や印鑑のしまい場所も分からなくて、お金を引き出すことができないようです。このままではいけないと思い、何度も「置き場がわからないのであれば、一緒に探そう」と話すのですが、姉は「余計なお世話だ」と聞く耳を持ちません。また、姉は、友人と温泉に行くのを楽しみにしており、先日はその友人からお金を借りたようなのです。今まで他人にお金を借りるようなことはありませんし、きちょうめんな性格でした。どうやら公共料金が口座から自動引き落としされていたため、貯金が底をついたのではないかと思うのです。どうすればよいのでしょうか。(三重県 妹 80歳)

【回答】受信前に「今後」の話し合いを 相談サービス利用も

 お姉さまご自身は「物忘れが多くなった」とは思っていないので、妹さんとしては困っておられるのですよね。物忘れは加齢とともにだれにでも現れてきます。それが、最近目立ってきたようですが、体調はどうでしょうか。友人と旅行に行くくらいですから体調はよさそうですね。まずは受診をお勧めしますが、その前にお姉さまが物忘れを自覚していないので、お姉さまの友人から一緒の時の言動などを聞いてみたり、日々の生活での様子を観察してみましょう。買い物を頼んでその一部始終からも観察できると思います。何か疑問に思うことや物忘れからくる特徴のようなものがあれば、メモをしておいてかかりつけの医師に相談するか専門外来を受診すると、本人も安心できるのではないかと思います。

 今までは、それほど困ったことはないようですので、お姉さまも自覚もないまま過ごしてきたのは当然だと思います。しかし、お姉さま自身もなんとなく気づいていて、自分自身で不安感を持っているのかもしれません。財布や貯金通帳は大切なものですから、きちんと保管をしておかないといけないと思うあまり、保管場所を変えたりしているうちに置き場所が分からなくなってしまうということは間々あることです。大切だと思うからそうなるのです。それを「一緒に探そう」といわれても、そう簡単にあなたの気持ちを受け入れられないのです。姉としてのプライドだってあると思います。妹さんの気持ちは十分分かっていても、簡単には従えない心の葛藤があるのです。その複雑な気持ちを察してあげて、お姉さま自身が探しているような気配があるときはそっと見守る態度で接しましょう。

 でも、いつまでもこの状態では先に進むことはできませんから、お姉さまの気分がよさそうなときを見計らって、お二人で今後どのように生活をしていくのか、病気になったときはどうするのか、そして金銭に関する具体的な話しあいをしてはいかがでしょうか。特に金銭面に関しては、これから先お互いに気持ちよく過ごすために、通帳や所持金などを見せ合って、書面に書いておくことも必要だと思います。 元気で動けるうちに、さまざまなサービスがどうなのかを実際に行われている場所に行って見学して自分たちに合うものか、福祉の制度などにも関心を持たれるのもよいと思います。住んでいるところの広報誌や区市町村、在宅介護支援センター、地域包括支援センターなどでも相談できますので、いろいろな情報を得て内容を確認しておくとよいでしょう。

 たとえば、成年後見制度は2000年にできた新しい制度で、認知症高齢者や知的障害・精神障害などにより意思能力・判断能力が不十分となった人が、財産管理や身上監護、遺産分割などに関係する契約などの法律行為をする場合、意思決定が困難な人の能力を補い損害を受けないようにして権利を守るとともに、社会的に支援する制度です。

 また、認知症高齢者は増加することが予測され、さまざまな取り組みが行われています。多方面から情報を集め、自分たちに適している制度やサービスがあるのかを探りながら、いつまでも安心して暮らせることを考えていきましょう。自分だけでは不安になった時は、電話相談など身近にあるものを活用して、一人で抱え込まないようにしてください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学