認知症110番

殻に閉じこもる義母

 義母(80歳)、夫、私の3人暮らし。結婚と同時に几帳面でプライドの高い義母と同居して28年、嫁として波風を立てないように気を使いながら生活してきました。義母は、最近物忘れがひどくなり自分でも戸惑いを感じているようです。夫の姉と妹が月に2〜3回来宅、義母は自分の子供が訪ねてくれるのは嬉しいようですが、物忘れを悟られないように気を使っているようにも感じられます。  嫁の私には「○○はどこにあるかしら」「あれ」「それ」とか言いますが、子供にはそうした態度はとりません。夫の姉妹も気づいていて、フォローするような場面が増えています。姉妹が帰った後、部屋に1人でいることも多くなりました。買い物や知人たちとの会話も少なくなりました。このままではどんどん閉じこもってしまうのではないか、姉妹もどう接したら良いか不安を感じています。(静岡県、55歳、長男の妻)

【回答】お姑の戸惑いと葛藤を共有し、理解を

 気丈なお姑さんとの同居でご苦労されてきたのでしょうね。でも、現在お姑さんはあなたを信頼し、一緒にいることで安心して生活することができているのだと思います。   加齢とともに心身機能など低下していくことは分かっていても、自分のこととして受け止めるのは難しいことです。特に気丈に過ごしてきた人は、今までとの落差に戸惑いや葛藤を感じ、自分の殻に閉じこもってしまうこともあるようです。多分お姑さんも自分自身で、物忘れがひどくなった自分を受け入れることはできず、「もっとしっかりしなければ」と思いながら、そうはいかない現実との狭間で揺れ動いているのではないでしょうか。

  認知症について、最近は情報が増え多くの人が理解を示すようになってきましたが、それまでは何となくマイナスイメージがあったと思います。お姑さんもそうしたイメージを強く持っていると思われますし、まさか自分がそうだとは理解しがたいことだと思います。ただ、今までとは違う自分に気づいているのでしょう。

  一方、子供たちは認知症の人へのかかわり方などを理解して、なるべくプライドを傷つけないように対応することを心がけているのだと思います。第三者から見ればその対応は多分、「親切なかかわり方」、「理解ある接し方」と言うと思います。しかしお姑さんは今までの接し方との違いを感じ、母としてのプライドが傷つけられたのではないでしょうか。子供の側としては思いやりなのですが、お姑さんにとっては子供は子供、母としての役割は生きがいであり、その感情の差があるのではないでしょうか。双方が良かれと思っていることなので難しいですね。

  現状では、母としての役割を発揮する場が薄れてきたばかりではなく、何となく自分でも物忘れを自覚するものの、どうしようもなく、人と接すれば接するほどそのことが鮮明になってくるため、人と接することに消極的になってしまうように思われます。

  お嫁さんとしては、他者との交流が少なくなれば会話も少なくなり、刺激もなくなり、心身の機能が低下していくことにもなりかねないと心配されておられるのでしょう。様子を見て認知症の専門外来やかかりつけ医などから、分かりやすくていねいに説明を受けることをお勧めします。その際には、予めお姑さんの性格などを医者に伝えておくとよいと思います。

  物忘れが起こる理由などを医者から教えてもらうことによって、本人の気持ちも楽になると思います。初めは落ち込むでしょうし、受け入れるまでに時間もかなりかかるでしょうが、そっと見守り様子を見ましょう。ゆっくりお茶を飲む時間を作り、一緒に考えましょうという姿勢でお姑さんの話に耳を傾け苦しい気持ちを共有しましょう。

  夫の姉妹には受け入れができるまで、少し距離をとってもらうのもよいと思います。また保護するというようなかかわり方ではなく、母としての役割が発揮できるように工夫してはいかがでしょうか。例えば、運動会や日々のお弁当の思い出など本人が中心になれる話題を選ぶなどはいかがでしょうか。疲れが出ない程度の時間で切り上げることも配慮しましょう。

  なによりも、お姑さんは自分自身の変化に戸惑いと葛藤を感じて苦しんでいることを理解することが大切だと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学