認知症110番

腰痛にならない介護

 85歳の母と同居しています。長女の私と夫・娘の4人暮らしで、夫と娘は勤めています。母は13年前から認知症で、この病気に伴ういろいろな行動に悩まされてきましたが、家族の協力や在宅サービスを利用して何とか乗り越えてきました。しかし、最近は歩く元気もなくなり、あんなに大変だった徘徊を懐かしくさえ思える日々です。

 ベッドで過ごすことが多くなり、トイレへ連れて行こうとしても重くて起こすのが大変です。一日に何度も行うため腰痛になってしまいました。今後、手を貸すことが多くなっていくことが予測され、先のことを思うと、自分の体がまいってしまいそうです。在宅サービスは今も利用していますし、これからも利用し続けたいと思っています。でも、ベッドから起こす行為は日に何回も行うことなので、腰痛にならないような介護の方法を教えてください。(東京都、58歳、長女)

【回答】起きることがわかるように声かけを

 認知症に伴うさまざまな対応を工夫されて乗り越えられたのですね。それを懐かしく思えるということは、かかわったからこそ味わえる充足感ですね。体験はこれからの人生を豊かにしてくれると思います。

 いま悩んでおられるのは、ベッドから起こすことで腰痛になっていることですね。お母様がなぜ起きるのかの意味が分からないために、受け身になっていて、体が起きることへの動作として動かないため、介護者であるあなたへ全体重がかかってしまうので、かなりの重さが腰への負担になってしまうのだと思います。

 起きることの意味が分かり自分から起きようとすれば、その起きる動作にそって介助できるのです。起こそうとする場合は、起きるための意味を分かってもらうための声かけをしましょう。「そろそろお手洗いにいきましょうか」「お茶にするので起きましょうか」などと、起きるための意味づけをします。その際の声かけは、「○○しましょうか」と伺うような気持ちでしましょう。指示や命令するような声かけは逆効果ですので気をつけましょう。体を動かしたくなるような声かけが必要です。お母様が動かそうという態勢になり、その自然な動きを見ながら手を貸しましょう。時間がかかりますが、その時間も含めて早めに声かけをするとよいと思います。

 起こす場合の基本としての介護方法は、例えば、ベッドの右側に介護者が立っています。(1)起きることを伝え、伝わったことを確認します(2)お母様の左腕をお腹の上にのせてもらい、膝が立てられれば、立てておきます(3)介護者の左手をお母様の肩の下に差し入れて、肘でお母様の首を保持します(4)介護者の左肘をテコにして、お母様の左肩を手前に倒します(5)お母様の右肘の少し下を押さえ、手前に引き寄せながら起こします(6)お母様の両手をお腹の上で組んでもらい、介護者の左腕をお母様の肩にまわし、右腕を両膝の下に入れて、お母様の体をV字形にします(7)お母様の臀部を支点にして回転します(8)ベッドの端に腰掛けてバランスを整え、両足が床面に着くようにします(9)両足を後ろに少し引いてもらい、お辞儀をするように前傾姿勢になってもらい、腕を介護者の肩に回してもらいます(10)介護者はお母様の腰に腕を回し、バランスを保ち、お母様の体を介護者の方に引き寄せながら立ち上がらせます。この時、介護者はできるだけお母様に体を近づけ、足の幅を広げ体の重心を低くして安定させて行います。

 これは、介護する人が全部介助する方法です。でも、お母様の力を活用しながらできない部分や、危ないなと思う部分に手を添えて、力加減を見計らって行いましょう。力を入れて起こすのではなく、支える様な気持ちで行い、声をかけながら一つ一つの動作をゆっくりすることで、お母様の気持ちが穏やかになり、自然に体が動きについてきます。自ら起きるという動作の自然な流れを手助けします。介護者の力で起こそうとすると、腰に負担がかかります。

 それでもかなりの力が必要で腰への負担がありますので、腹筋や背筋を鍛えておかれることを勧めます。また、利用しているサービス機関や自治体などが介護者教室を開いていると思います。そこで介護方法を身につけると、力の入れ具合やコツが分かります。参加してみましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学