認知症110番

高齢者の運転

 父は80歳で、母が10年前に他界してから一人暮らしをしています。2年前から物忘れが目立ってきましたが、頑固な性格でなんとか生活はしています。娘の私は車で30分のところに住んでいるので、週3〜4回訪問し、買い物や掃除、おしゃべりをしています。先日、父の運転で近くのスーパーに行ったのですが、信号が赤なのに行ってしまい、青なのに止まってしまう行動にびっくりしてしまいました。「そろそろ運転は止めたら」と言ったら「まだまだぼけていない」というのですが、心配です。事故が起きない前に何とかしたいと説得しているのですが、聞き入れてくれません。(茨城県、女性、52歳)

【回答】じっくりと危険性を納得させる

 悲惨な事故のニュースを聞くたびに、いつかこのような事故を起こすのではないかと心を痛めておられることでしょうね。お父様は娘さんからみても頑固な性格なのですから、正面から「運転を止めて」といっても素直に止めることはしないと思いわれます。だれだって何十年もやってきたことを、「突然止めて」といわれても今までの自分を否定されるようで受け入れがたいでしょう。お父様だって、日々の生活のなかで、自分の心身の衰えに気づいているでしょうが、慣れた生活が継続されていればそれほど困ることにはならないので、自分の心身の低下を認めがたい思いがあるのでしょう。

 娘さんは、お父様の生活を客観的に見ていて、予め生活に不自由がないように買い物や掃除などをして配慮しているから、ひとりでの生活が成り立っているのです。しかし、お父様のほうは、自分が主体的に自分の生活を切り盛りしていると思っているし、現実に生活ができていることに自信を持っていると思います。車の運転だって必要に応じて乗りこなしているし、そのことによって自分らしい生活が保たれていると感じているでしょう。

 それなのに、突然「運転を止めて」と言われても、理由がわからないばかりか、プライドが傷つくような発言に憤りを感じているのではないでしょうか。しかし、現実の行動は事故を起こす可能性があることなので、すぐに運転を止めてもらいたいですね。お父様は物忘れが目立ってきたということは、認知機能が低下してきているのですから、運転をすることが危険であることを、どのようにしたら理解してもらえるかを理論的にではなく、感情的にわかってもらう方がよいように思います。

 運転を止める代わりに他に楽しめることや興味を持てることを探して、しばらくは娘さんと共通の話題で過ごせるような工夫はいかがでしょうか。また、生活のなかで買い物が必要にならないように、日常的に必要なものは少し多めに準備しておいたり、娘さんが訪問したときに娘さんの運転で買い物に同行するなど、運転する機会を少なくしてはいかがでしょうか。あるいは、ご近所のサークルやデイサービスを利用することなどによって運転する機会を遠ざけつつ、高齢者の事故例を引き合いに運転の危険性などについて納得してもらえるよう時間をかけて説得してみましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学