認知症110番

通帳や印鑑を管理したがる父

85歳の父と84歳の母は2人で暮らしています。長女の私(63歳)は車で1時間のところに住んでいます。母は物忘れがあり父が家事をしています。金銭の管理は父がしていますが、銀行に行くのは私です。最近父も物忘れから、「銀行に行ってきて」と頻繁に電話をかけてきます。通帳は父が持っていたのですが、何度も銀行に行くようになり預かっています。「通帳や印鑑はどこだ」「お前が使った、取ったのではないか」などというので、口論になることも多く、通帳や印鑑の管理もできなくなっているのに、自分で管理したがり困っています。(神奈川県、娘63歳、女性)

【回答】少額の通帳持たしてみては

 ご両親は二人で協力し合いながらなんとか生活をしてきたのでしょうね。お母様が物忘れから家事ができなくなり、お父様が頑張って家事をすることで生活ができてきたのでしょうが、毎日のことですから、疲れやストレスが積もり重なってきたことと加齢に伴なう認知機能の低下が表れてきて、再三にわたり銀行に行くことや通帳のことを聞くのでしょう。あなたにすれば、手元にお金があり不都合なことは起こらないと想定しているのにどうしてそうなるのか不可解でしょう。

 生活をしていく上でお金は重要です。そのお金をお父様は管理しているのですから、お金に関してはかなり気を配っておられると思います。一方で、お金は大切だから置く場所なども気にして管理しているのでしょうが、そのことを忘れてしまい、自分の手元にあると思っていたのに見当たらなくなってしまう現実があります。冷静に考えれば、思い出せるのですが、お金が見当たらない事実がクローズアップされ困惑状態になり、その解決策として、あなたに銀行に行ってもらうという行動になるのだと思います。

 決して、あなたを疑っているのではなく、日常生活をする上でお金がないと困るという感覚が、目の前にお金がないという事実の意味を理解できず、通帳・銀行・あなたが結びついてしまうのでしょう。なぜお金が見当たらないかの理由がわからないために起きてしまい、あなたは管理を十分しているのに、なぜそのようなことを発するのかわかりません。お金を取ったなどと言われると気持ちが萎(な)えてしまいますよね。一番言われたくない言葉ですよね。

 しかし、認知機能が低下してくると、このようなことは珍しいことではありません。お金が見当たらないという事実があると、そのことが気になって、周りの人が説明してもわからなくなってしまうのです。お金がないということに集中してしまうのです。お金がないことにこだわって他のことに注意が向けられないのです。たとえば、通帳を持っていることで安心するのであれば、お父様に持っていてもらい、紛失してしまった場合は紛失届を出す。少額の新しい通帳を作って持っていていただくなども一つの方法だと思います。その通帳をしまい忘れたりするでしょうが、持っているだけで安心する場合もあります。手元にお金や通帳がないことにこだわるのです。このこだわりも認知症の人の特徴です。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学